銃声が二度響いた深夜、アマゾン奥地の金鉱山で2人の男が血まみれで倒れていた――。NHKディレクターが目にしたのは、暴力と恐怖が日常化した“無法地帯”の現実だった。なぜ殺人は起き、死はどう扱われたのか。

 アマゾン最深部の不法金鉱山で暮らす男たちを追ったノンフィクション作家・国分拓氏の文庫『ガリンペイロ』(新潮社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む

写真はイメージ ©getty

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荒くれ者どもが集まる「黄金の地」

《ピアウイ・カレッカ(禿げ頭のピアウイ男)》はここに七人いるピアウイ州出身者の一人だ。ガリンペイロではなく金鉱山専属の大工である。プリマヴェーラには三人の大工がいたが、経歴は最も長い。賃金は月給制で月に黄金二十グラム(およそ八万円)である。黄金の悪魔が所有する五つの金鉱山には三十戸を超える倉庫や保管庫がある。その建設や補修を主たる業務としている。

 その夜、小屋でうたた寝をしていたピアウイ・カレッカは大きな音で目を覚ました。一回ではなく、大きな音が二回聞こえたことも覚えていた。だが、それが何時だったのかと問われれば、正確に答えることができない。夜遅くまでカンチーナで飲み、店を出てから川で水浴びをした。しかし、どのように小屋まで戻り、何時に眠ったのか。彼はほとんど何も覚えてはいなかった。

 とにかく大きな音だった。彼にはその音が何の音かもすぐに分かった。銃の音、より正確に言えば散弾銃の音だ。だが、物騒な音で起こされたというのにピアウイ・カレッカが慌てることはなかった。またかと思っただけで、表に出て何が起きたのか確かめようともしなかった。

 凶事なら、ここではさほど珍しいことではない。すぐに眠りに就くと朝まで目覚めることはなかった。