銃声が二度響いた深夜、アマゾン奥地の金鉱山で2人の男が血まみれで倒れていた――。NHKディレクターが目にしたのは、暴力と恐怖が日常化した“無法地帯”の現実だった。なぜ殺人は起き、死はどう扱われたのか。殺人の実行者のその後とは⋯⋯?

 アマゾン最深部の不法金鉱山で暮らす男たちを追ったノンフィクション作家・国分拓氏の文庫『ガリンペイロ』(新潮社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む

写真はイメージ ©getty

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血塗れのナイフを持っていた男の名

 血塗れのナイフを持っていた男の名は《ナタウ(聖夜)》といった。ガリンペイロ同様、カスタネイロも本名を名乗らない。金庫によれば、その年の五月にここに来たとき、ナタウはこう言ったという。弟が前の年の十二月二十五日に殺された。その日は聖夜だったのに、つまらない喧嘩で殺された。だから、ここではナタウと呼んでくれ。

 事件のあった日、ナタウは酒場で酒を飲み、同じ倉庫に寝泊まりをするカスタネイロとトラブルになった。そのカスタネイロが同性愛者でしつこく迫られたからという噂もあったが、理由ははっきりしない。ナタウが話したところによれば、気づいたときにはピンガの瓶を割って立ち上がっていたという。そして、絡んできたカスタネイロを瓶で殴った。拳でも殴った。相手が戦意を喪失するまで殴り続けた。どれくらい殴ったのか、ナタウははっきり覚えてはいなかった。ただ、殴られた男が呻くように呟いていた言葉だけは覚えていた。殺してやる。いつか必ずおまえを殺してやる。男はそう言った。

 倉庫に戻ったナタウは一緒に働きに来ていた遠縁の若者に「ハンモックを替われ」と言った。遠縁の若者とは年下の幼馴染で、まだ十代だった。若者は兄貴分であるナタウの命令に訳も聞かずに従った。

 そして、深夜となった。酒場で殴られたカスタネイロが散弾銃を持って近づいてきた。ナタウが寝ているはずだったハンモックに蹴りを入れると、いきなり発砲する。遠縁の若者はハンモックから落ち、這うようにして逃げた。さらにもう一発、銃声が響く。