事件がうやむやに終わった理由

 その直後、散弾銃の男に背後から突進していったのがナタウだ。狙撃した者の背中を刺し、そのまま床に倒れ込む。いったんナイフを引き抜き、背中から心臓を狙ってもう一度刺す。つまり、こういうことだ。『カスタネイロがナタウの遠縁の若者を散弾銃で撃ち殺し、ナタウがそのカスタネイロをナイフで刺し殺した』のだ。

写真はイメージ ©getty

 多くの者たちに疑問が残った。なぜナタウは「ハンモックを替われ」と命じたのか、ということである。あたかも、その後に起きることを予測していたような行動だ。自分に害が及ぶことを避けるために他の者を生贄に差し出したともとれる。

 何人かがその理由を問い質した。ナタウは「咄嗟の考えでそうしただけだ」としか答えなかった。彼はまた、若者への弔意を口にすることも、カスタネイロを刺し殺してしまったことへの反省の弁も語ることはなかった。

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「事件」は、それでうやむやとなった。

 彼は殺人者であり、別の殺人事件の目撃者でもある。通常の社会通念で考えれば、一つの殺人事件の容疑者であり、もう一つの殺人事件でも重要な参考人だ。だが、ナタウが殺人犯として警察に引き渡されることはなかった。目撃者として取り調べを受けることもなかった。誰かから訴えられることも裁判にかけられることもないまま、その後もしばらく金鉱山に残り続けることになる。

 ここは法の力が及ばない密林の中の金鉱山だ。殺人を犯したとしても公権力によって裁かれることはない。殺された者の肉体のみが、森のどこかで朽ちてゆくだけである。

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