映画「国宝」の思いがけない大ヒットによって、2025年は「歌舞伎」という文字が各方面に現れた年になった。邦画の実写映画で興行収入歴代二位、22年ぶりの百億超えという、事前に誰も予想しなかった社会現象となれば、映画としての評価、ヒットの要因分析は、これから時間をかけて議論があるだろう。
むしろ、映画をきっかけとして本物の舞台の歌舞伎も見てみたくなった、という浮動層をどう迎えるかという方策こそ、鉄は熱いうちに打ての待ったなしで、歌舞伎界の対応が注目される。映画の中に登場した「二人藤娘」(実は伝統的な演目ではなく、近年の新演出)は10月博多座・南座、「鷺娘」は12月南座での上演が決まった。最も重要な演目として登場した「曽根崎心中」も、遠からず、どこかの劇場で上演されることだろう。
八代目尾上菊五郎襲名と松竹創業百三十年
歌舞伎界では2025年は、八代目尾上菊五郎襲名披露という大名跡の継承事業が行われた年で、現在の歌舞伎興行全般を仕切る松竹の、創業百三十年というメモリアルイヤーでもあった。
歌舞伎は国のバックアップによって税金で運営されているという、大きな誤解をしている向きが少なくないが、歌舞伎は松竹という私企業によって興行されており、一国を代表する古典演劇が、同時に純然たる商業演劇でもあるといった事態は、世界に例をみない。歌舞伎の運営は、伝統を継承しつつ、同時代にアピールする興行材として生き続けなければならないという、極めて困難な二元の道を必須とする。



