通常、クマの生息場所には“序列”がある。人間の気配が少なく木の実が豊富な山奥には強いクマが居座り、その次に強いクマがその下のエリアに、親子グマや弱いクマは山のすそ野の方、人里に近い方に押し出される。人里近くには果樹園や家庭菜園がありエサには困らないが、その分、人間との接触機会も増えるので、クマにとっては本来居心地のいい場所ではない。
だが山の実りが極端に少ないと、本来山奥にいるクマもエサを求めて山を離れざるをえなくなる。
「もちろん山にいるクマがすべて人里に出ているわけではありませんが、とくに子連れのメスに関しては、例年以上に通常年の生息域を越えて移動している印象があります」
石名坂の印象は、西区で捕獲されたクマのほとんどがメスであったことからも裏付けられそうだ。
大量出没の2つのパターン
石名坂によると、クマの大量出没には2パターンあるという。
「(1)8月から9月初旬にかけての夏の大量出没と、(2)9月中旬以降の秋の大量出没という2パターンです。例えば私が知床で経験した2012年の大量出没は(1)のパターンで、2015年の大量出没が(2)のパターンでした」
(1)の真夏の時期はもともとクマが好む食べものが高山帯のハイマツのマツボックリと川を遡上するカラフトマスぐらいしかない。そのためハイマツが不作で、さらにマスの遡上が海水温上昇で遅れたりすると、クマは一気に飢えてしまい、人里への大量出没に繋がる。
「それでも秋になって山中にドングリなどが実れば、大量出没も落ち着くのですが、問題はドングリ類が不作だった場合です。ただでさえエサの少ない真夏の時期を経て、一息つくはずの秋の実りがない年に(2)のパターンの大量出没が起きる」
この秋、札幌で起きたのは、まさに(2)のパターンの大量出没ということになる。
「恐らく、本州各地におけるツキノワグマの大量出没も同じメカニズムだと思います」
ただ、と石名坂が首をひねる。
「実は今年(2025年)の夏、道南でも大量出没が起きたんですが、今夏の道南の大量出没の“トリガー”となった食物がなんだったのか、あまり道南の土地勘がないので、そこがちょっとわからない」
その道南の福島町では2025年7月、新聞配達中の男性がヒグマに襲われて死亡、その遺体を食害されるというショッキングな事故が起きている。石名坂はその現場にも入っており、何を目撃したのだろうか。
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