推し活ガチ勢に聞いた「夜行バスの魅力」
高速バスは各社とも、こういった座席のプレミアム化に力を注いでいる。現在は推し活勢を中心に「安い座席」ではなく「良い座席」の方が売れる場合も多いといい、夜行バスは「動くホテル」としての機能を求められている、と言っていいだろう。
こうした背景から、むしろ安さではないメリットで夜行バスを選ぶ人も増えてきた。筆者のサラリーマン時代の同僚で、推し活のために全国を飛び回るA氏もその1人である。A氏は、「推し活」という言葉がまだない30年ほど前からハロプロを中心に広くアイドルを追いかけてきた。
会社員として常務取締役まで登り詰めているため、もはや前泊の費用は気にしなくていい立場であるはずのA氏が夜行バスを利用する理由は何か。A氏によると、夜行バスで移動するメリットは「現地に早朝に到着、行列に並べる」ことだという。
アイドルやアーティストのライブは、たとえ開演が夜でも、グッズは早い時間から販売している。特にハロプロ関連グッズは500人、1000人の行列も当たり前で、深夜から並ぼうとするガチ勢に対抗するためにも、朝5時台に夜行バスで到着してすぐ、ライブ会場に直行できるのは大きなメリットなのだという。
また、ライブ会場外のカフェで行われるグッズ・トレカの交換会に参加したり、推しへの愛をひたすら語り合うミーティングで人脈を広げたり……A氏は交換用グッズを携行しながら、こういった交流の場へ積極的に参加している。交流が落ち着き次第、木陰での立ち寝で体力を回復して、ライブに挑むといい、もちろん帰りも夜行バスだ。
A氏いわく「ライブ参戦での推し活・ヲタ活は、開場の12時間前から始まっているんだよ!」とのこと。ちなみにA氏は、こういった交流の広さと情報網を積み上げたおかげで推していた真野恵里菜さんのハロプロ所属ラストシングルのPVに出演、推しの5メートルほど後ろでタオルを振るという、二度とないビッグチャンスを掴んだ経歴を持つ。夜行バスの貢献度は測り知れない。
もちろん前泊しても良いが、早朝にチェックアウトするのであれば、ホテルにお金を使うのは勿体ない。かつ、コロナ禍や「Go To トラベル キャンペーン」の際に「シティホテル=安い」という前提で遠征をしていた人々も、現在のホテル料金をことさら割高に感じてしまい、高速バス移動に切り替えるケースも散見される。
こうして見ると「無駄が多かったホテル前泊から、安くてある程度快適な高速バスへ」の推し活移動のシフトは、起こるべくして起こったのではないか。
