アーティスト、アイドル、声優、スポーツ選手など、いまや日本では、10代・20代を中心に4人に1人が、誰かを「推し」ているとされる(2024年・推し活総研「推し活実態アンケート」より)。

 地方に住んでいる人からすれば、東京で開催される推しのライブイベントに行きたいけど、毎週ごとにホテル代を払っていては、資金にキリがない。なら、推し活のために夜行の高速バスを使おう――こういった人々が、近年増えてきた。

多くの夜行バス・高速バスが発着するバスタ新宿(筆者撮影)

 ただ、多くの夜行バスは多少の休憩時間があるとはいえ、基本的にはひと晩中シートに座りっぱなしだ。そのため、翌朝の到着時には背中はバキバキ、足はむくみ、ほとんど眠れないまま会場に到着、という事態になりかねない。

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 それでもなぜ、推し活に夜行バスが選ばれるようになったのか。

「1泊2万円」時代で、夜行バスが注目されるように

 推し活のための移動で、夜行バスが選択肢に入り始めた第一の理由は、はっきりしている。ホテル代高騰による、前泊を伴う移動のコスト上昇だ。まずは首都圏のADR(1泊の平均客室単価、東京ホテル会調べ)から、ホテル料金の推移を見てみよう。

直近7年間のADR推移(東京ホテル会調べ)

 2019年頃まではADRが1泊1万円前後で推移し、稼働率もさほど高くなかったため、ネットで探せば都内でも5000~8000円くらいでホテルに宿泊できた。

 これがコロナ禍による需要の急減を挟んだのち、インバウンド(訪日客)の急激な客足回復もあって、2022年12月は「1万2518円」、2023年は「1万6809円」、2024年は「1万9028円」と、年を追うごとに高騰している。稼働率90%程度と需給がひっ迫しているため、安いホテルを探すこと自体が困難となってしまった。

深夜の海老名サービスエリア。各社の夜行高速バスが集結する(筆者撮影)

 高速バス大手「WILLER EXPRESS」が2025年6月に調査を行ったところ、「直近2年で宿泊料金が高くなったと感じるか」という問いに「非常に感じる」と回答した人が70.2%、「宿泊料金の高さを理由に夜行バスを利用したことがあるか」という問いに、68.5%が「ある」と回答している。両項目とも2023年の調査から5~10ポイントも上昇しており、ホテル代が高騰するにつれて、ホテルを前泊利用していた人々が高速バス利用に流れるという関係がうかがえる。イベント・ライブに参戦する推し活勢なら、数千円・万円の値差は、グッズ購入に全振りしたいところだろう。

「安い」だけじゃない、夜行バスの「超進化」とは?

 と、ここまで「安さ」から夜行バスが注目を集める理由を解説してきたが、実はそれだけではない。近年、夜行バスは衝撃の進化を遂げているのだ。