ところが、それらが秀長にはない。
“彼なくして突破できなかった局面”が伝わっていない。その彼を主人公に歴史ドラマを作るならば、大部分を、彼以外の(織田信長や秀吉ら著名人たちの)史実と創作で埋めることになる。秀長の政治的発言は1つも記録に残っていないが、それならば逆に、ドラマの秀長の台詞は〈秀長ならこう語りそう〉〈秀長にこう語って欲しい〉という制作者側・視聴者側の願望通りの言葉で満たせる。
「秀長がもっと長命なら…」という推測は本当か
公式サイトによると、ドラマは秀長が「兄とともに、万民が笑って暮らせる太平の世を作るという夢を抱き始める」というストーリーになる。同じ台詞を、30年前の大河ドラマで秀吉も語っていた。それを見た時の、高校時代の困惑を思い出す。平和のために世界に君臨するのだ(その過程の戦争で多くの悪者が当然命を落とし、多くの味方も無関係の民も正義のために命を落とすのはやむを得ないけれど)って、まるで近年の米国みたいな詭弁じゃないか、と。今回のドラマではぜひ、高校生でも納得できる理論武装でこの矛盾を解決して欲しい。
とはいえ、秀吉や秀長が、「戦のない平和な世の中を作りたい」と述べたり考えたりした形跡は確認できない。そして、大変心苦しいのだが、〈秀長がもっと長命なら、朝鮮出兵という暴挙を止めただろう〉〈彼が長命なら、豊臣家はもっと長持ちしただろう〉という、あちこちでさも統一見解のように語られる推測は、どうやら願望であって、裏づけがないようだ。秀長が、そこまで気骨ある諫言のできる人だったと見なせるに足る記録はない。史実を素直に見つめる限り、秀長は秀吉の忠実な手足だったが、ブレインだった形跡がない。



