昨今の生成AI株の熱狂は、いつまで続くのか? AIブームに冷徹な警鐘を鳴らすのは、新著『エブリシング・ヒストリーと地政学』が話題を呼ぶエコノミスト、エミン・ユルマズ氏だ。バブルをめぐる歴史の法則から、熱狂の裏に潜むリスクを徹底解説。バブル崩壊の兆候と、AI利用による安易なコストカットの果てに企業が直面する「人材危機」の正体とは?
(本稿は、「文藝春秋PLUS」(12月17日配信)の動画から一部まとめたものです)
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「すべてのバブルは必ず崩壊する」歴史法則
――直近の株式市場の一大テーマはやはり生成AIです。AI関連株はかなりの過熱感がありますが、AIバブルはピークアウトの兆しが見えてますか?
エミン もう見えてますよ。そもそもAIがバブルなら必ず崩壊します。ポイントは「すべてのバブルは必ず崩壊する」という歴史の法則です。
17世紀オランダのチューリップ・バブルしかり、ポトシ銀山開発で潤ったスペインのバブルしかり、18世紀フランスのミシシッピ・バブルも、イギリスの南海泡沫事件(サウス・シー・バブル)もすべて崩壊してます。工業化が進んで以降の、イギリスの1840年代鉄道バブルも、1890年代自転車バブルも崩壊していますし、20世紀に入るとアメリカの株が弾けて1907年金融恐慌が起きています。
――歴史を振り返るとバブルを繰り返していますね。
エミン 近いところを見ても、1970年代の半導体バブルがあり、80年代の日本のバブルがあり、2000年頃にはITバブル、そして近年中国の不動産バブルも崩壊してます。ポイントはAIがバブルかどうかというよりは、少なくとも株価は確実にバブルだということ。
今年、エヌビディアは時価総額5兆ドル超を記録しましたが、日本国のGDPより1社の時価総額が高いなんてありえないでしょう。まずこの現象自体がおかしいと思わなきゃいけない。100年に1度の金融危機と言われたリーマン・ショック時、不動産担保証券の損失に対して国が補助で出したコストは、実は1兆ドルいっていません。いまからするとたいしたことのない金額に見えるでしょう? たった17年前の話ですよ。いま株の数字がとてつもなく大きくなっていて、ある意味、いかにお金が価値を失っているかを示すいい例です。
今やビッグテックの時価総額を合わせると、20兆ドルを超えます。あまりにも数字が膨らんで、もうリアルマネーじゃない。膨らみすぎた時価総額は、エヌビディアや他のテック企業にしても、少しでも売りが起きるとものすごい勢いで時価総額がシュリンクしてしまう。もうこの現象自体がバブルなんです。
うまい話は永遠には続かない
――今回のエヌビディアの四半期決算は非常によかったですが、好決算による株価の上昇とバブル崩壊は直接関係したりしますか?
エミン 現在のエヌビディアの事業は利益がきちんと出ていて、いい会社だと思いますよ。ポイントは、なぜここまで株がバブルになっているかにあって、要は事業がこれからも勢いよく成長していくという楽観的なシナリオがあるんですね。エヌビディアが1社独占で3万ドルで売っているチップはTSMCでつくってるものです。とんでもない高額なマージンを取ってチップを売っていますが、永遠にうまい話が続くわけがない。
すでにGoogleが自前の半導体つくり出しましたし、他も追随しています。僕は昔、企業価値の計算をするM&Aの仕事をしてたのでよく分かりますが、バブルの時は、まるで今の成長率が永遠に続くかのように計算してしまうもの。その盛り上がりこそがバブルなんですね。

