――楽観主義というか、人間はうまくいっているときずっと続くように思い込んでしまいますよね。

エミン だから人間は、わかっていながらも同じ過ちを繰り返します。もうひとつ言えるのは、人間は短期的なリスクとリターンを過大評価しがちです。一方、長期的なリスクとリターンは過小評価する癖があります。だからバブルを膨らませたり、崩壊させたりしてきた。

 バブルが崩壊する時、なにもそこまでパニックにならなくてもいいのに、関係ない企業までありえない価格で売り込まれるでしょう? リーマン・ショックの時も、「もはや世界経済は終わった」「資本主義が終わった」と大騒ぎしていた。それはどう考えても行き過ぎの考えで、そういうエクストリームな感情に人間は揺らされてきたわけです。

ADVERTISEMENT

エミン・ユルマズ氏

 今後AIが発展していったら、人間は投資判断のプロセスから取り外されて、AIが合理的に動くかもしれません。そしたらバブルは発生しないけれど、相場がつまんなくなるでしょうね。私たちはバブルを経験する最後の世代かもしれない(笑)。

――投資は人間がやるからこそ面白いですよね!

エミン そうなんです。人間がやってるから、馬鹿馬鹿しいことも素晴らしいことも起きる。

AIのマネタイズには3億人の有料会員が必要

――あとはAI関連でいうと、いまデータセンターへの大規模な投資がアメリカでも中国でも行われている流れをどう見ていますか?

エミン ITバブルの時、みな先行して光ファイバーを引いたことを思い出します。でもITバブルが崩壊した時点で、実は光ファイバーの90%は未使用だった。つまり、設備投資が先行するけれど、サービスが世の中に広がるには時間がかかるのでなかなかマネタイズができない。だから当時光ファイバーをやっていた会社はけっこう倒産しました。データセンターへの投資も似たところがありますね。

 今後AIは社会のいろいろな場面で使われていくと思いますが、事業者が考えているほどのスピードでマネタイズできると僕は思わない。これは単純にちょっとした計算があって、これまでのデータセンターへの投資を回収するには、少なくとも向こう5年間でAIを有料で使う人たちがNetflix人口と同じくらい――3億人程度になる必要があります。月額2~3万払う人たちが。

 これってどう考えても難しいですよね? 仮にNetflixの数に届いたとしても、AIサービスに月々払うのはせいぜい3000円という人が大半だと思います。では企業が払うかといったら、ある程度払うかもしれないけれど、AIは思ったほど使えないし結局は人が最後にチェックしないといけないと感じている企業も多い。

――なかなか業務で使いこなすまでいってないですよね。

エミン あと厄介なことに、AIで代替できるものは会社で言うと新人がやるような仕事なんですよね。そういうのを全部AIにやらして「新人はいらない」とした時に、10年後にはどうなるか? 新しい社員がいなくなるし、中間管理職も育たないじゃないですか。

 僕自身振り返ってみても、新人のころに証券会社でやらされていたことは、いまはAIが簡単にできます。でも、無駄な資料をいっぱいつくる中で、情報はどう入手して、どう解釈すべきかを学んでいった。それらを全部AIがやったら人はどうやって育つんだろうと思いますね。

 確かに企業としては、人件費をコストカットできるから、AIで目先の利益は上がるでしょう。でも10年後、20年後、人が会社から消えてどうするの? 果たしてAIが全部動かす社会が本当にいいのか考える必要がありますよね。

動画のフルバージョンはこちら

次のページ 写真ページはこちら