戦争体験者の代わりに伝えるものとして

──そんなことが……。

武田 ですが体験者がいなくなりつつある今、彼らの代わりに伝えるものとして『ペリリュー』を描くことができて、本当によかったと思えるようになってきました。

 戦争をテーマにするとどうしても表現をすることも、それを受け取ることも、どちらもハードルが高くなってしまいますが、でも僕はこの作品でそれを下げられたらいいなと思っています。

ADVERTISEMENT

 史実をベースにしたリアルな戦場を描こうとはしてますが、『ペリリュー』はあくまでエンタメ作品です。楽しみながらも戦争を実感として、これからの人たちにも感じてもらえたらうれしいですし、描き手として葛藤を抱きながらも精一杯誠実に向き合って、これからも取り組んでいきたいと考えています。

日本軍の戦死者は1万22人。今なお1000柱を超える日本兵の遺骨が収集されることなくペリリュー島で静かに眠っている。

──最後に、おすすめの戦争映画を教えてください。

武田 塚本晋也監督の『野火』(2015)をおすすめします。いや、おすすめではありますけども、万人が観るべきとは言いません。本当に人を選びます。でもそれくらいリアルに戦争の現場、最前線の悲惨さっていうのを表現した作品だと思っています。

 とにかく観る人は覚悟して観てください。でも自分はおすすめはしたい! したいけど、本当に悲惨です!

たけだ・かずよし 漫画家。1975年生まれ、北海道岩見沢市出身。2012年に精巣腫瘍の治療体験をテーマにした『さよならタマちゃん』でデビュー。2016年から白泉社「ヤングアニマル」誌で『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』を連載開始し、2017年に日本漫画家協会賞優秀賞を受賞。

『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』
漫画家志望の21歳の陸軍一等兵・田丸はその才能を上官に買われて、部隊の“功績係”に任じられる。運悪くぬかるみで滑って転んで頭を打って亡くなった仲間の最期も、田丸によって敵兵相手に勇猛果敢に戦った末に散華したという美談に仕立て上げられ、遺族に知らせるという役回りだ。
しかし、そんなある日、ついにアメリカ軍が島に上陸する。田丸は同い年の陸軍上等兵・吉敷らとともに最前線の陣地でアメリカ兵を迎え撃つが、圧倒的な戦力差により瞬く間に蹂躙されてしまう。
司令部から玉砕を禁じられ、持久戦に徹するよう命じられる田丸たち。しかし、持久しようにもそのための食料がない。水すらない。口々に「早く死にたい」と呻く負傷兵たち。そんな死ぬに死ねない地獄の底のような世界で、田丸は吉敷とともに日本への生還を誓い合う。
同じ味方とはいえ、極限状態の中で剥き出しになるそれぞれの人間性。そんな人々との潜伏生活が2年半も続くと、もはや誰と何のために戦っているのかわからなくなってしまう。戦争のリアルがここにある。

監督:久慈悟郎/原作:武田一義/脚本:西村ジュンジ、武田一義/声の出演:板垣李光人、中村倫也、天野宏郷、藤井雄太、茂木たかまさ、三上瑛士/制作会社:シンエイ動画×冨嶽/日本/2025/104分/配給:東映/©武田一義・白泉社/2025「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」製作委員会

最初から記事を読む 「色と動き、音がつくと、戦場はこんなにも残酷になるのか」アニメ化『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』で原作者が驚いたこと