DV相談員は極めて責任の重い仕事なのですが、私が明石市長になった2011年当時は国の基準においても年収300万円に満たないような条件で採用されていました。その多くが非正規雇用でした。そのような不安定な待遇で、深刻かつ難しい案件に対応する人材を集めようということ自体がそもそもおかしいのです。
そこで、明石市では、正規職員で年収700万円という待遇でDV相談員を全国公募することにしました。全国の相談所に、明石市の募集要項を送付したのです。
「うちの職員を引き抜く気か」と激怒して電話をかけてきた市長も何人かいましたが、私は「引き抜きなんかしていません。案内を送っているだけです。文句を言うだけでなく、そちらも待遇改善を検討してみてはどうでしょう」とお返事しました。
明らかに変わった「クレーマー対応」
募集の結果、DV問題の第一人者として東京で活躍していた人が明石に引っ越してきてくれることになりました。専門性を尊重し評価するのだという市の本気の姿勢を、適切な年収や正規雇用などの形で誠意をもって示せば、よい働きをしてくれる人材が各地から集まってきてくれます。
その結果が市民の安心につながり、人口増や税収増につながって、さらなる行政サービスの向上につながるのですから、湯浅誠さんが「アカシノミクスによる好循環」と言ってくれたのは、まさにその通りだったと自負しているところです。
次に、専門職としての弁護士5名の採用は、市役所にどのような変化をもたらしたか、いくつかの事例を紹介したいと思います。
その筆頭に挙げるべきなのが、先ほど述べたクレーマーの対応です。明らかにクレーマーと思われる人から電話がかかってきたら、その瞬間に、「お待ちください、担当に代わります」と言って、すぐに「はい、弁護士職員の**です。お話を伺わせていただきます」と電話口に出てもらうようにしました。
「今からそっちに押しかけるぞ」などと脅してきたとしても「どうぞお越しください。弁護士職員の私が、しっかり対応いたします」と返せば、いちゃもんをつけたいだけのクレーマーはものの1分ほどで「ああ、もういいわ」となります。