土下座や金品を要求するだけでおさまらず、時には店員に暴行を加えるケースも……。近年、社会問題化している「カスハラ」(カスタマーハラスメント。顧客による理不尽なクレームや言動を指す)の壮絶な実態とは?
犯罪心理学者として長年カスハラにかかわってきた桐生正幸氏の新刊『カスハラの犯罪心理学』より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
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土下座強要の逮捕劇
2013年10月、札幌市内に住む当時40代の女性が「強要」の疑いで逮捕された。
逮捕の1カ月前、女性は午後6時ごろに札幌市東区の衣料品店にやってきた。その手には前日にその店で購入したタオルケットが握られている。女性はパートの従業員を見つけると、凄まじい剣幕で詰め寄った。
「この店で買ったタオルケットに穴が空いていた!」
従業員はタオルの穴を確認すると謝罪して、返品を受けつけることにした。購入金額を返金したが、それでも女性の怒りは収まらない。
「店に来るのに使った交通費を返せ!」
なんと、女性はさらに金を要求してきたのだ。
クレームにはきちんと対応しているため、これは過度の要求になる。店長代理も加わって対応し、店の規定で払うことはできないと2人は女性に説明した。要求を突っぱねられ、女性はますます怒り狂うと、怯える従業員2人を怒鳴りつけ、なんと土下座を要求した。
2人は驚いたが、女性は本気のようだ。さらに詰め寄られ、怒鳴られる。他のお客も怯えている。これ以上長引かせては業務にも差し障るし、タオルケット代では済まない被害が出るかもしれない。2人は膝を折り、地べたに震えながら手をついた。土下座をする頭上では、写真を撮るシャッター音が鳴り響いた。
女性は、2人の名前を確認すると、その画像とともに店の悪評をSNSに投稿。さらに、自宅まで謝罪に来るよう要求した。
従業員たちが警察に被害届を出したことにより、この女性は逮捕された[「週刊現代」2013年10月26日号]。