「結婚してからずっと、夫に『バカ』って言われ続けているんです」
46歳の和子さんは、高学歴、会社経営者の夫、則之さん(48)からのモラハラに耐え続ける日々を送っている。テレビを見て何か言えば「お前は本当に頭が悪いな」、料理を作れば「よくこんなまずいもの作れるな。お前がバカだからだ」と夫に言われ、しまいには娘からも「お母さん、バカだからね」と言われるように。
そんな日常を変えようと、和子さんは夫ともに夫婦でカウンセリングを受けることを決意。そこで夫が発した言葉とは――。
年間に20万件弱も発生している「離婚」。夫婦の衝突や、それぞれの抱える葛藤の行きつく果てといえるが、その前段階でお互いのことを理解し合えれば「壊れかけた夫婦」は再生できる。長年、多くの夫婦と向き合ってきたカウンセラー・山脇由貴子氏による新著『夫婦はなぜ壊れるのか カウンセリングの現場で見た絶望と変化』から、一部抜粋してお届けする。なお、プライバシーへの配慮から本文中の名前は全て仮名。(全2回の2回目/最初から読む)
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「特に問題はない」「娘も素直に育っていると思います」
則之さんにカウンセリングの目的について、どう理解されているかを尋ねました。
「妻から、『夫婦関係を良くしたい』『夫婦で過ごす時間を大切にしたい』と言われて、それはそうだな、と。娘も中学受験を終え、順調に行けば大学まで受験もないですし、夫婦で過ごす時間を充実させるのも良いだろう、と」
私はさらに則之さんに尋ねました。
「今現在、夫婦関係はうまく行っていると思いますか?」
「そうですね……」
則之さんは少し考え、続けました。
「特に問題はないと思います。喧嘩もないですしね。娘も素直に育っていると思います」
和子さんは横でうつむいています。自分の発言が和子さんを傷つけているとは思っていない、という事です。ただ、こういった問題は遠回しに伝えるのではなく、はっきり伝えた方がいいと私は考えています。遠回しに伝える事で誤解が生じたり、気持ちを理解してもらえなくなるからです。
「則之さんが問題を感じていないのは良い事だと思うのですが、和子さんは悩んでいる事があって、カウンセリングにおいでになりました」
私がそう言うと、則之さんの表情に疑問が浮かびました。
「妻が悩んでいる?」
「はい。それを則之さんに直接伝えるのが難しいようでしたので、おいで頂いたんです」
則之さんの顔に今度は警戒の色が浮かびました。
