ある不動産投資セミナーで講演をした時のこと。会場は不動産投資に興味を持つ個人投資家で満席。インフレの色を鮮明にしつつある日本。自らの資産防衛のために、現金で持つよりも株式、あるいは金、不動産といった実物資産に換価、投資していこうという人たちで会場はいっぱいだ。

写真はイメージ ©Faustostock/イメージマート

「マンション仲介マーケットはあきらかに変わった」と言う社長

 講演が終了し、帰り支度をしているとよく知った不動産仲介会社の社長に出くわした。社長はこの道何十年というベテラン。不動産仲介のプロ中のプロだ。

「牧野さん、講演おもしろかったよ。あんたの話、いつも楽しみに聴いてるよ。でも、今の不動産マーケットについて今日はあまり突っ込んだ話をしなかったね」

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 この社長、自分の意見をずばずばおっしゃるタイプの方で、私の講演に少し物足りなかったような表情を浮かべながら語りかけてきた。

「社長、そう感じられましたか? でも今日は不動産投資セミナーでしたから、投資の考え方、ノウハウを中心にお話ししました。マーケットの現状と今後についてリスクの話をしても、あまりウケないかと思いまして」

 と言い訳すると社長、

「だめだめ、牧野さん、もうマンション仲介マーケットはあきらかに変わったんだよ」

 と真顔で現在のマンション仲介マーケットについて話し始めた。

「売れないままで粘っている間に…」

 社長によると中古マンションマーケットはここ3か月で「あきらかに」潮目が変わったという。3か月前からとすれば、高市首相の台湾有事発言とは関係がない。具体的には東京の湾岸エリアにおいては、売却希望住戸数が前年同期比で4倍に膨れ上がり、他方、買い希望者は半減しているとのことだ。

「売り手側はまだ、マンション価格はどんどん上がるはずと考えているから売値を下げないんだよ。でも買い手がいない。売れないままで粘っている間に、売り希望住戸がどんどん積み上がってくる。そんな状況だよ。これは宴が終わるサインだね」

 東京五輪選手村跡地にできた晴海フラッグでは現在売り希望が200戸にも及んでいるという。賃貸募集をしている住戸に至っては400戸にもなるそうだ。賃貸については賃貸専用棟があるが、分譲された住戸のオーナーも数多く賃貸に供しているそうだ。