『あんのこと』の主人公は最終的に悲しい結末を迎えるとはいえ、終盤では、たまたま預かった赤ちゃんを必死になって世話し、それが彼女の生きがいになっていくさまに一筋の希望を抱かせた(このパートはフィクションだという)。河合のなかでもその後、できるかぎり希望を持てる作品に参加したいとの思いが募っていったようだ。最近のインタビューではこんなことを語っている。
《なかなか明るい未来が見えず、希望を持ちづらい世の中だと思います。でも、だからと言って、嘆いているばかりでは、絶対に状況は変わらないことも身に染みます。/自分の仕事が世の中の役に立っているかはわかりませんが、出演作を見てくださった方たちと一緒に、いい未来に行きたい。そんな気持ちで、みなさんとつながれたらいいなと思っています》(『PHP』2025年11月号)
2024年には『あんのこと』のあとも、アニメ映画『ルックバック』、そしてデビュー前から一緒に仕事をしたかった山中瑶子監督の『ナミビアの砂漠』と主演映画があいついで公開され、同年度は日本アカデミー賞、ブルーリボン賞、キネマ旬報ベスト・テンなど映画各賞の主演女優賞を総なめにした。
主役脇役の境界を超えた、作品本位の仕事選び
今年も、1月公開の『敵』に始まって現在公開中の『旅と日々』まで映画5作に出演、NHKの連続テレビ小説『あんぱん』でのヒロインの妹役も評判を呼び、秋には3年ぶりとなる舞台『私を探さないで』にも出演した。ただ、改めてこの1年の出演作を振り返ると、多くはメインキャストでの起用とはいえ、厳密な意味での主演作がなかったことに気づく。
しかし、河合からすればたぶん、自分が演じる意味が見出せるのであれば、主役か脇役かはさほど重要ではないのかもしれない。そもそも仕事を選ぶ基準が、監督が一緒に仕事をしてみたい人だったり、あくまで作品本位であることは、これまでの出演作からもあきらかだ。
