「ロングショットのワンカットでいきたい」

 柳本氏の提案に驚いた。

 テレビの映像は視聴者が飽きないように一つのカットは長くても十数秒という短い尺で編集する。20~30秒くらいのインタビューのコメントでも、インサートカット(質問者の聞いている顔や、取材中の様子を遠くから撮ったロングショットなどの映像を音声にかぶせる手法)を数秒挟み込む。柳本氏は、そのインサートで使うようなロングショットでインタビューを撮りたいというのだ。

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©AFLO

 公園で撮る場合、テレビカメラがあると見物客が集まり、取材に集中できない可能性がある。多くの人の目に触れることで知り合いに会うなどのリスクもゼロではない。そこで考えたのが、人気の少ない木陰に僕とFが正対して地面に座り、数十メートル離れたところにフードをかけたカメラを設置して周囲にわからないように撮影するというものだった。

 映像には、地面に座るFの後ろ姿が映し出され、僕は陰で見えない。なおかつカメラをズームせずに、画面をロングショットとミドルショットの2種類だけに固定する。そうすることで映像に余白が生まれ、視聴者はFの話に集中できる。字幕や音楽などで賑やかに画面を飾るテレビの表現方法とは正反対の発想だった。これなら周囲にも撮影とは知られず、僕らもインタビューに集中できる。取材現場の条件としても現実的な提案であった。

幼いころに両親は離婚し、母子生活支援施設に身を寄せた

 9月23日。インタビューは午後からの予定だったが、天気が崩れるとの予報になり、急きょ開始を午前に早めた。午前8時にFと合流し、公園まで移動。カメラクルーは別行動で僕らより早く到着し、セッティングを終えていた。Fと僕は草むらにシートを敷いて向かい合わせで座った。Fの遠く後方で待機している柳本カメラマンが片手を上げて合図したのを視界の端で確認し、質問を始めた。

「事件が起きる前はどんな生活を送っていましたか?」

「中学校のときに親や先生から高校進学のことは耳が痛くなるくらい言われていたんですけど、自分としては小学校のときから早く社会に出て働いて家を楽にしたいと思っていたので、何を言われても高校に行く気はさらさらなかったです」

 タクシー運転手の父親と夜の仕事をする母親とのあいだに生まれたF。幼いころに両親は離婚し、母子生活支援施設に身を寄せた。小学5年生のころから非行に走るようになる。中学を卒業してすぐに建築業の現場に飛び込んだものの、長続きはしなかった。