史上最年長となる78歳で、4月30日の静岡エコパから10月1日の横浜アリーナまで、全国13都市28公演、延べ31万人を動員するアリーナツアーを完走した小田和正さん。

「明治安田生命Presents KAZUMASA ODA TOUR 2025『みんなで自己ベスト!!』」と題されたツアーでは、CD史上最高の280万枚売上げた「ラブ・ストーリーは突然に」をはじめ、オフコース時代から最新曲「すべて去りがたき日々」までを披露し、会場を包む大歓声に応え続けた。

 大規模なツアーはこれが最後かもしれない——そんな思いで見守ったファンの予想を、小田さんの透明感あふれる変わらぬ美しい歌声は、鮮やかに裏切った。

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 MCでは「ありがとう。ツアーは終わりますが、明日からも自己ベストを更新し続けてください」と語り、観客一人ひとりにエールを送った。

 小田和正さんの音楽人生を辿った初の大型評伝『空と風と時と 小田和正の世界』をノンフィクション作家の追分日出子さんが上梓したのは2023年11月のこと。その年の最後の横浜アリーナ公演を終えられたあと、追分さんによる小田さんのインタビューに同席する機会を与えていただいた。

 その時、印象に残ったお話などを、ファンクラブ会報誌「FAR EAST CAFE PRESS」2023年10月号より紹介する。

©FAR EAST CLUB INC.

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 美しい歌声とハーモニー、心躍るサウンド。喜びや哀しみのすべてを包み込むような高く心に響きわたる詞の数々。母がオフコースのファンで、車の中でよくカセットを聴いていました。私と弟はオフコースの歌を子守歌のように聴いて育ちました。以来、私の人生の中にはいつも小田和正さんの歌が流れていたように思います。

 編集者となり、いつか作ってみたいと思っていた小田さんの本。その本がついに発売されることとなりました。小田さんの初めてとなる評伝『空と風と時と 小田和正の世界』です。

 小田さんご本人と、オフコース時代から右腕となって伴走しているファーイーストクラブ副社長の吉田雅道さんにお目にかかることができたのは、2022年7月のさぬきテアトロンでした。小田さんのライブ体験は、1990年10月の横浜アリーナ公演以来。33年ぶりに生で聴く歌声に、雷に打たれたような感動で、最後まで涙が止まりませんでした。

 ライブ会場で印象的だったのは、多くのスタッフの方々ひとりひとりが、まるで熟練した職人さんのように働いていたこと。一人で何役もこなすというツアースタッフの誠実なお仕事ぶりが、あのスーパーライブになるのだということを実感しました。評伝の中では、スタッフの方々はじめ音楽関係者の証言がたくさん出てきます。小田さんご本人のインタビューはもちろんのこと、オフコースの元メンバーである、鈴木康博さん、清水仁さん、大間ジローさん、松尾一彦さん、地主道夫さんの貴重なお話もたくさん。当時のレコード業界やレコーディング風景から、数々の名曲、ヒット曲がどうやって生まれたのか、その楽屋裏を覗くようです。

 鈴木さんは発言を控えたいとおっしゃったものの、実に真摯にお話をしてくださいました。苦しくても自分の音楽世界を追求してきたこと、そして今も音楽が好きだというお姿に深い感銘を受けました。

 盟友・吉田拓郎さんのインタビューも読みどころのひとつです。拓郎さん、とにかくしゃべるしゃべる。笑いすぎて何度お腹がよじれたことでしょう。そして、オフコースの初期のファンクラブに入っていた作家・川上弘美さんには、コンサートやラジオの公開録画に足を運ぶ都会の高校生だった青春時代を語っていただきました。

©BUNGEISHUNJU