評論家・翻訳家の芝山幹郎氏と、映画評論家の森直人氏が、2025年のベスト映画について語った。ふたりが選んだ「2025年映画のベストワン」は――。
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2025年の「不動の第1位」は?
森 『ワン・バトル・アフター・アナザー』はハリウッド(LA)の最新金字塔ですね。
芝山 まさに驚天動地。春先に色々な秀作を見て楽しんでいたのが、秋に『ワン・バトル~』を見て、全部ひっくり返っちゃった(笑)。
とにかくアクションに圧倒される映画ですが、物語のさわりを紹介しておくと、主演のレオナルド・ディカプリオは爆弾闘争も辞さない革命組織「フレンチ75」の元メンバー。今は過去を隠し、同志テヤナ・テイラーとの間に産まれた最愛の娘と冴えない日々を送っている。しかし、ある日突然、娘が何者かに誘拐されてしまった上に、ショーン・ペン演じる変態軍人がディカプリオを執拗に追いかけてくる。ディカプリオは、娘の空手の“センセイ”ベニシオ・デル・トロの助けを借りながら、娘を救うために戦う。
ショーン・ペンの髪型が本当に趣味が悪い(笑)。コーエン兄弟の『ノーカントリー』で不気味な殺人鬼を演じたハビエル・バルデムの“史上最悪の髪型”に匹敵する。
森 監督のポール・トーマス・アンダーソン(以下、PTA)は、第10作にして、ひとつのピークを迎えましたね。そもそもPTAはハズレなし、全作傑作と言っていい人で、前作『リコリス・ピザ』も素晴らしかった。でも、今回のほうがより総合的にPTAらしいし、同時にザッツ・エンタテインメント!
芝山 とにかくエキサイティング。シリアスな側面と馬鹿馬鹿しい部分を、これだけ爆発的に融合させた映画は珍しい。
森 まさに。ディカプリオがある“アクション”に挑まないといけないときに「トム・ファッキン・クルーズみたいに」やれ、とデル・トロ“センセイ”にどやされるシーンも爆笑でした。緊張感と笑いが渾然一体となったシーンが満載。横長のワイドスクリーンには本来不向きな巻き込まれ型のスクリューボール・コメディの構造を巧く応用していて、重量感のあるシーンを豪腕の演出力で快調に転がしていく。ディカプリオも過去最高級に面白かった。
芝山 あの、ぼんくらぶりやへっぴり腰が生きていましたね。ある種のカーニヴァル感覚というか、抑圧や独裁に対して、はっきりノーと言っているわけですが、それがみじんもお説教臭くない。むしろ、血湧き肉躍るイメージが、つぎつぎと画面に叩きつけられていく。映像も演技も音楽も、すべて有機的に化合して、観客を異次元にかっさらっていく。

