2024年9月、浅草公会堂で行われた尾上右近の自主公演「研の會」で、眞秀は『連獅子』の仔獅子を勤めた。親獅子が仔獅子を千尋の谷に突き落とし、そこから這い上がってくる人気演目だ。そして最後は勇壮な毛振りで幕を下ろす。私が観劇した日、寺島しのぶは母の富司純子とともに最後列に座っていた。幕が降りた時、私はふたりの姿を見たが、祖母は盛大に拍手をしていたが、母は舞台の方をじっと見ていた。

「なんだか、自分が踊っている気になっちゃうんです。自分も毛振りをして魂は自分も踊ってる。だから、見終わると疲労困憊してしまいます」

 祖母と母の立場の違いが際立っていて、忘れられない光景だ。舞台だけでなく、家族も含めて「歌舞伎」なのである。

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「いい仕事してるね」と言われるのが、親孝行

 11月には、眞秀が出演した『港のひかり』も公開された。

「私自身は、自分が出演した映画は2、3年経たないと観ませんけど、『港のひかり』は試写で観ました。こういう作品にめぐりあえて本当によかったなと思いました。

 演技についても感想を伝えましたが、私の母が『そんな細かいことを言ったって可哀そうよ』と言っていました。私の時と随分違うなと思いましたけど、孫にはすごく甘いんです(笑)」

 これまでの自分を振り返ると、両親には心配をかけないようにしていたのに、結果的に心配をかけてしまったかな、と思う。

「私は家族がしていないことをやらなければいけないと思っていたし、早く親を安心させたいという思いもあったんです。でも、『ヴァイブレータ』や『赤目四十八瀧心中未遂』、『キャタピラー』のような濡れ場も込みの役を選んでしまって、結局は心配させる羽目になっていましたね。でも、最終的には親に『しのぶ、いい仕事してるね』と言われるのが、親孝行なのかなと思う。両親が歳を取ってくればくるほど、そう思います」

 

 寺島しのぶ、血を受け継ぐ者。

 この2月には新橋演舞場で藤山直美(彼女もまた、血を受け継ぐ者である)と『お光とお紺~伊勢音頭 恋の絵双紙~』に出演する。

 アクセルを加減しながら……と言いつつも、全開で舞台に立ってしまう寺島しのぶの姿が目に浮かぶ。

「いい塩梅が見つかるといいんだけど」

 新しい年もまた、葛藤が続く。

鈴木七絵=写真
河部菜津子=スタイリング
持丸あかね=ヘアメイク

てらじま・しのぶ 1972年生まれ、東京都出身。父は七代目尾上菊五郎、母は富司純子と歌舞伎の家系に生まれ、大学在学中に文学座に入団。舞台やテレビドラマを経て2001年に『シベリア超特急2』で映画デビュー。その後『赤目四十八瀧心中未遂』(03年)や『ヴァイブレータ』(03年)、『キャタピラー』(10年)などで意欲的な役柄を演じ話題に。他にも多くの映画や舞台で活動しつつ、歌舞伎にも出演。12月26日まで上演される「十二月大歌舞伎」では、「芝浜革財布」で政五郎の女房おたつを演じる。

『国宝』

吉田修一の同名小説を李相日監督が映画化。任侠の一門に生まれながら歌舞伎の世界に飛び込み、血筋に抗いつつ運命に翻弄される男が、「国宝」に上り詰めるまでの激動の人生を描く。主人公・喜久雄を吉沢亮、その生涯のライバルとなる俊介を横浜流星が演じ、渡辺謙、寺島しのぶ、田中泯らが共演に名を連ねる。

 

STAFF & CAST

監督:李相日/出演:吉沢亮、横浜流星、高畑充希、寺島しのぶ、森七菜、三浦貴大、見上愛、永瀬正敏、中村鴈治郎、田中泯、渡辺謙/原作:吉田修一『国宝』(朝日文庫・朝日新聞出版)/2025年/日本/175分/配給:東宝/©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会

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