実写邦画の歴代興行収入記録を更新した今年度最大の話題作『国宝』。

 自らの人生を投影するような役柄を演じた寺島しのぶが、その演技に込めた思い、そして歌舞伎界に育った自身の生き様を語った。(全2回中の2回目/最初から読む

寺島しのぶ ©︎鈴木七絵/文藝春秋

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八面六臂の活躍を見せた2025年

 2025年、寺島しのぶは映画に、舞台に、そして歌舞伎にと八面六臂の活躍を見せた。

 今年を振り返ると、『国宝』が公開される前、4月には紀伊國屋サザンシアターで『リンス・リピート』に主演し、暮れの12月には『芝浜革財布』で2度目の歌舞伎座出演を果たした。しかし、実は1月に体調を崩しており、体調は万全ではなかった。そんな中、出演した『リンス・リピート』は、「重厚劇」と呼ぶにふさわしい内容だった。

 主人公の大学生レイチェル(吉柳咲良)は、深刻な摂食障害の治療のため入院していたが、退院の可否を判断するための試行期間として、久しぶりに実家へ帰宅する。家族は彼女を温かく迎え入れ、回復を願っているように見えるが、寺島しのぶ演じる母親は、法律家として成功しており、娘にも自分と同じような完璧さを求め、無意識のうちにプレッシャーを与えていく――。

 劇中、ユーモアのある台詞はちりばめられていた。しかし、笑うことが憚られるような緊張感に包まれた舞台だった。スーツ姿に身を包む寺島しのぶの立ち姿には、峻厳ささえ感じたほどだ。

表舞台に立つことはやめた方がいいのかもしれない

「病み上がりで臨んだ『リンス・リピート』は正直、キツかったです。幸いなことに舞台に立つ事ができましたが、内容的にずしりと重たいものだったから、大変でした」

 もう、表舞台に立つことは辞めた方がいいのかもしれない――と考えた時期もあった。

「私はここまで頑張ってきたし、これからは表に出る仕事よりは、裏に回って仕事をするのもありなのかもしれないと考えました。でも、『リンス・リピート』をやってお客様の拍手って温かくていいなと改めて思ったんです。あの拍手を聞いて、演じること、表現することは、自分の人生からは削れないのかなと思いました」

 これまではとにかく馬車馬のように働いてきたが、少しずつアクセルを調整しなければいけないと自覚するようにはなった。

「50歳を過ぎたら、自分のキャパシティがどんどん狭くなってる気がするんです。芝居の稽古にしても、台詞覚えに集中しちゃうと、もう他のことを忘れちゃう事もある。なんでもかんでもやりたいという時期は過ぎたんじゃないかと感じています。参加させていただく作品一つひとつ丁寧に魂を込めて臨みたいと思うようになりました」