2026年1月14日、都内にて第174回直木三十五賞の選考会が開かれる。作家・渡辺優氏の候補作『女王様の電話番』(集英社)について話を聞いた。(全5作の5作目)
恋愛至上主義に投げかける疑問符たち
「この世界はスーパーセックスワールドだ」――衝撃的な一文で始まる物語は、なんでも性や恋愛に結びつけたがる世の中に馴染めない主人公の戸惑いを通じて、現代社会の生き辛さや違和感をリアルに描く意欲作だ。
「ドラマや映画、ネットニュースでも恋愛・不倫といったセックスに連なる話が溢れかえっていますよね。そんな世界に対して抱えていたモヤモヤとした気持ちを、短く表現しようとした時に、すっと出てきたのがスーパーセックスワールドという言葉です。その話を編集者さんとしていたら、小説として書けるんじゃないかと提案をいただきました」
主人公の志川という女性は、新卒で就職した不動産会社をある事情から辞め、現在はSMの女王様をデリバリーする風俗店の電話番をしている。
「以前、バイトを探していた時に、普通のコールセンターの求人かと思って何も知らずに面接に行ったら、風俗店の電話受付だったことがあって。『知らない世界だし面白そうだな』と、一日だけ研修を受けました。まさに、作品に書かせてもらったような驚きや戸惑いがいっぱいあり、いつかこの体験を小説にしたいと思っていました」
優雅な熟年美人の美織という女王様に憧れた志川は、食事の約束を取り付けたが、なぜか彼女は音信不通となってしまう。店に内緒で行方を探る志川だが、美織の知らない一面ばかりが見えてきて――。
「スーパーセックスワールドをどう生きるのかというテーマとあわせて、女王様が失踪するというミステリー要素を取り入れました。志川がなぜ美織を探すのか、読んでくださる方によってその答えは違ってくると思います」
そんな志川には、相手を「好きだ」と思う感情はあるが、性的欲求を抱かないアセクシャル(無性愛)ではないかとの悩みがあった。
渡辺さんは、この志川のキャラクター造形に迷い、書き直しを重ねた。
「これまで恋愛や性的なテーマをメインで扱ってきませんでした。自分のセクシャリティに疑問を持たない人もいれば、人との違いに深く悩む人だっている。今回は、人によって性への感覚は違うということを書きたかった」
志川は一見、自己中心的で一般的な感覚からズレているように読める。しかし、彼女は異端者ではなく、自分の人生を正直に生きているだけなのだ。
「世の中の当たり前と自分の中にある当たり前が違うと感じた経験は誰しもあると思います。世界には様々なものの見方があるということも、志川という人物を通して描いたつもりです」
渡辺 優(わたなべ・ゆう)
1987年宮城県生まれ。2015年に「ラメルノエリキサ」で第28回小説すばる新人賞を受賞してデビュー。著書に『自由なサメと人間たちの夢』『アイドル 地下にうごめく星』『クラゲ・アイランドの夜明け』『アヤとあや』『カラスは言った』『私雨邸の殺人に関する各人の視点』『月蝕島の信者たち』などがある。
(初出:「オール讀物」2026年1・2月号)
