素手で、他人が使ったバイブの後始末
「スイッチを切って、ゴムを外して、きれいに消毒してくださいね」
クールに言われた。想定内の指示だ。それでも、食い下がってみる。
「僕がですか?」
「もちろん」
「素手で?」
「もちろん」
「でも、まだ温かいんですよおー」
このホテルをチェックアウトするギリギリまで女性のなかに入れていたのだろうか。湯気こそ立っていないが、体温を感じた。
「それで?」
ササキさんはあくまでもクール。これ以上ごねるのは大人げない。仕事なのだ。
「すぐにやります」
僕も男。駄々をこねるのはやめにして、バイブの動きを止め、ヌルヌルするコンドームを外す。むき出しになった先っぽに消毒用のアルコールを噴霧して布でキュッキュッと拭いた。たったこれだけの作業で、額に汗がにじんだ。情けない。
実はこの日、生まれて初めてバイブを触った。初バイブが他人の使った後始末とは。なんて残念なオレ、と思った。
こうして、大阪・難波にあるラブホテルの仕事がスタートした。
アニメ声の「嬢」にいざなわれ、バックヤードへ
「60代OKのラブホテルの仕事がありますけれど、もちろんやりますよね?」
60歳以上の仕事探しを書籍化する編集部の花田紀凱編集長から連絡をもらい、「やります!」と即答した。そのときは安易に考えた。楽しそうだとすら思った。伊豆の会員制リゾートホテルの仕事で高評価をもらったので、ラブホテルもやれるだろうと高を括ってもいた。
東京から大阪へ向かったのは夏の週末。午前の新幹線で新大阪に着き、地下鉄で難波のホテルへ。街は大阪・関西万博に来た観光客で大賑わい。その人混みが酷暑の大阪をさらに高温に感じさせる。
溶けそうになるほど暑い街中を人をかき分けかき分けして進むと、目的のホテルがあった。館内に入ると、エアコンがキンキンに効いていた。生き返ったように感じる。
「いらっしゃいませ。お1人ですか?」
スピーカーから、アニメの声優のようなフロント嬢の声が響いた。ラブホテルで「お1人ですか?」という問いかけは変だと思ったが、ホテルで風俗嬢と待ち合わせる1人客もいるのだろう。
「日雇いでうかがいました」
「ああー、はいはいはい。承知しております。左手のドアから事務所へお入りください」
フロント嬢に従いバックヤードへ入ると、そこは従業員の詰所になっていた。
