見知らぬ人が使った「器具」を素手で片付け、ホテルの回転率を高める。ラブホテルの清掃には昼も夜もなく、とにかく忙しい時間が流れる。そんな仕事に、60歳を超えて「仕事」と「収入」が激減した男性が飛び込んで目にした光景とは――。
人生100年時代ともいわれる一方、年金制度の先行きが危ぶまれる昨今、60歳や65歳での「リタイヤ」はもはや許されない。私たちは定年退職を迎えた後も、生涯にわたって働く必要がある時代に突入している。とはいえ、老境に入って体力が衰えていても従事できる仕事には、どんなものがあるのだろうか?
これまでフリーライターとして活動してきた神舘和典さんが、60歳を超えて「人生で初めての就職活動」を行い、さまざまな職業を体験したルポ『60歳からのハローワーク』(飛鳥新社)から「ラブホテル清掃員」として働いてみた際のエピソードを抜粋してお届けする。(全4回の1回目/つづきを読む)
◆◆◆
「ベッドの上でバイブがウネウネ動いています」
グイーン、グイーン、グイーン。
客室に入ると、聞き慣れない卑猥な機械音が静かに響いていた。なんだろう? 音のするほうに近づくと、ベッドの上で棒状のバイブレーターの先っぽがウネウネと動いている。まるで生きものみたいだ。
亀頭のようなヘッドにはピタッとコンドームが装着され、照明でテカテカ輝いていた。恐る恐る触れるとまだ生温かい。
「ササキさーん!」
一緒に客室掃除を回っているチームリーダーのササキさん(仮名・以下同)を呼んだ。40代くらいの、きびきびと動く女性だ。
「どうしました?」
バスタブを掃除していたササキさんが、雑巾替わりのバスタオルを手にやってきた。
「ベッドの上でバイブがウネウネ動いています」
ササキさんも生き物のように身をうねっているバイブのほうを見る。
「ええ、動いていますね」
「どうすればいいでしょう?」
聞いてみたものの、どうすればいいかはわかっている。スイッチを切り、コンドームを外し、バイブを消毒するのが自分の仕事だ。でも、見ず知らずの女性のアソコに突っ込んでグリグリしたばかりのホットなバイブに触りたくない。慣れているササキさんが「私がやりましょう」と言ってくれることを期待した。
しかし、仕事はそんなに甘くない。
