ウクライナ戦争の和平をめぐって「米国」と「欧州」が対立している。即時に停戦をもたらすべく“ロシア寄り”の和平案をウクライナに強いる「米国」が「悪=非常識」で、米国に抵抗する「欧州」が「善=良識的」だ、というのが西側の主要メディアの論調だ。
だが、フランスの歴史人口学者・家族人類学者のエマニュエル・トッド氏と作家・元外務省主任分析官の佐藤優氏によれば、ウクライナ側の敗北はすでに明らかで、“負け戦”の継続を無理に強いれば、ウクライナの被害が無意味に大きくなるだけだ。
対談「米国の敗北を直視して核武装せよ」(「文藝春秋」2026年1月号、「文藝春秋PLUS」に全文掲載)で、トッド氏と佐藤氏は、日本は「米国」よりも「欧州」にこそ警戒せよ、と説いている(通訳・堀茂樹)
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米国だけでなく欧州にも警戒するようお勧めしたい
トッド 日本の方々に警告しておきたいことがあります。
この20年間、概して私は、米国にかなり批判的で、欧州に概ね肯定的な立場から、日本と欧州の状況を重ね合わせてきました。
しかし、日本は次の事実を直視する必要があります。敗北を自覚している米国と異なり、現在の欧州の指導者たちは、「ロシアとの戦争〔ウクライナ戦争〕を続けよう」という好戦的な態度、精神状態にある、ということです。極めて危険な態度で、戦争が不必要に長引くほど、ウクライナの犠牲は拡大し、「自国の主権が直接脅かされた場合の戦術核使用の可能性」をロシアが公言している以上、核の使用につながるリスクもある。私は、米国だけでなく欧州にも警戒するよう日本の方々にお勧めしたい。
欧州のなかでも、両氏はドイツに警戒せよ、と強調する。
トッド 欧州経済を支配しているのはドイツです。対露制裁で経済危機に陥っているのもドイツで、AfD(ドイツのための選択肢)が伸長し、メルツ新首相の登場とともに、自国の経済問題を兵器生産で解決する誘惑に駆られています。
ドイツの強大な産業力は、ロシアにとって“真の脅威”となる恐れがあります。通常兵器で劣勢に立たされたロシアが、ドイツに対抗するために戦術核を使用するしかないという事態に追い込まれる可能性がある。
ドイツ人は日本人と同様、規律正しく効率的な社会を築いていますが、日本人がもつユーモアのセンスがドイツ人にはない。
地政学においてはユーモアのセンスも時に必要です。日本人は生真面目すぎるドイツ人のように振る舞うべきではないという歴史的瞬間をいま迎えていると感じます。


