《先の参院選では「日本人ファースト」を掲げた参政党をはじめ、排外主義につながる主張が注目を集めた。その余勢を駆って、外国に関わる誤情報やデマが、故意に拡散された可能性はないか。漠とした不安を呼び覚まし憎悪をあおるとすれば、悪質である。》(信濃毎日新聞社説「ホームタウン騒動 デマは国際交流の妨害だ」9月21日)

今年の選挙現場で見た印象的なシーン

 ここからは私の実体験である。今年の選挙現場で見た印象的なシーンだ。6月の東京都議選から7月の参院選を現場で見たが、排外主義的な「演説」が多いことに驚いたのである。事実と異なるものも多かった。公的な場で政治家や候補者がヘイトのようなものを平気で言うわけだから「そうか、言ってよいのだ」とスイッチを押された人が出てきても不思議ではない。全国知事会へのクレームもホームタウン騒動も参院選後に起きているのは地続きのように思えた。

 こうした空気は、特定の政党や人物に限った話ではない。流れに乗ったのか、9月の自民党総裁選での所信発表演説会では高市早苗氏が外国人観光客の一部が「奈良の鹿を足で蹴り上げ、殴って怖がらせる人がいる」と主張して外国人政策の厳格化を訴えた。しかし奈良県庁で奈良公園を所管する部署の担当者は「観光客による殴る蹴るといった暴力行為は日常的に確認されておらず、通報もない」とマスコミ取材に答えている。

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高市首相 ©時事通信社

 さらに高市氏は刑事事件を起こした外国人に関し「警察で通訳の手配が間に合わず、不起訴にせざるを得ないとよく聞く」と発言した。法務・検察幹部は「最後まで通訳が確保できなかったという話は聞いたことがない」と取材に対し語っている。

 事実は二の次で、主張が共感されればそれでいいという風潮。個々の発言以上に、こうした言説が歓迎される空気そのものが、いま問われている。来年も加速するだろうが、重要になりそうなのはメディアが淡々と事実を指摘できるかどうか。デマや攻撃にもへこたれず、あきらめずにできるか。来年は「ニュー・オールドメディア」への試練の年になるのでは?

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