恋や苦労、喪失の経験があるから、事件のあやが分かる

――おまあには意外な過去があり、そのため手裏剣の名手であったり、“夜駆のおりゅう”や“怒髪の勝次”といったかつての仲間の「老士組」も登場して活躍します。また、合羽長屋の少年・乙吉といった時代小説らしい魅力的な登場人物も作品を彩っています。そして、最後にはおまあの秘められた過去の恋も明らかになり……

諸田:アガサ・クリスティーの探偵たちが若い探偵ではなく年配者なのは、人生経験があるからこそ人間を見る目があり、探偵として活躍できるからなんですね。だから、おまあの人間関係や、おまあを支える人も大切に描きたいと思いました。恋もしただろうし、苦労もしただろうし、様々な人を失った経験もあるでしょう。そういう経験があるからこそ、事件のあやが分かるんです。ミス・マープルにも秘められた恋を描いた一編がありますよね。

『おまあ推理帖』(文藝春秋)

――そういった深い人間性が、クリスティーのミステリーの本質であり、『おまあ推理帖』で描きたかったおまあたちの姿、ということでしょうか。

ADVERTISEMENT

諸田:AIで作られた殺人事件ではなく、人間らしい生き方、人生が込められているところが、クリスティーの時代のミステリーの素晴らしさだと思います。だから『おまあ推理帖』でも、おまあの過去を掘り下げ、秘めた恋があったり、人に言えない職業があったりという部分を描きました。仲間や少年との関わりを通して、おまあの過去が徐々に浮かび上がってくる長編的な物語にしたかったのです。

――最後に、読者へのメッセージをお願いします。

諸田:今は人と人との関係が希薄だと言われますが、実はそんなことはなくて、若い人も含めて皆さん様々な悩みを抱えていて、人間の本質は変わらないと思うんです。おまあに癒されたり、楽しんだり、笑ったり泣いたりして、日常から少し離れて嫌なことを忘れられるような小説となっていたら嬉しいです。


『おまあ推理帖』は2026年1月9日発売。クリスティーへのオマージュが感じられる美しい装丁の表紙も注目です。江戸時代の浅草を舞台に、人間の本質を見抜くおまあの推理と、彼女自身の秘められた過去が徐々に明らかになっていく物語を、ぜひ手に取ってご覧ください。

おまあ推理帖

諸田 玲子

文藝春秋

2026年1月9日 発売

次のページ 写真ページはこちら