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「1人でメダルを取る力はありません」

 ロンドン五輪の金メダリストで現WBA世界ミドル級王者の村田諒太選手が、フェイスブックに掲載した退陣要求ともとれるコメントには「生意気だ」と語気を強め、唇を震わせて口を尖らし「1人でメダルを取る力はありません」と非難した。加えて「私が世界選手権の代表に選びました」と発言したのも、自己愛の強さゆえである。こういう性格の人は嫉妬心が強いため、どんな者であろうと、自分よりも賞賛され、能力があると認められることが許せないのだ。

 理屈に合わない持論を展開し、説明になっていなくても正当性を堂々と主張するのも自己愛で説明できる。

 自分に対する特権意識が強く、なんでも許され、特別に取り計らわれるのが当然であると思っている。万能感が強く、自分が一番偉いため、言動も態度も尊大で傲慢、人は自分の言う通りに動けばいいと思っている。他人は自分の目的を達成する道具であり、他人の存在や気持ちは意識していない。――このような人物は、権力を持つほどに他人には厳しく自分には優しくなり、ルールを簡単に破り自分勝手に振る舞いやすい。失敗を恐れ、自分の立場を弱くすることを嫌うため保身が強く、自分の責任は認めない他罰的傾向も強くなる。

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自宅前で囲み取材に応じた山根氏 ©加藤慶

権力や特権意識は心地よく、人から判断力を奪う

 これらの傾向は、少なからず至学館大学レスリング部の栄和人前監督や日大アメフト部の内田正人前監督にも見られた。

 誰の中にも自己愛はあるが、問題はその程度だ。組織の中で圧倒的な力を持った彼らは、賞賛され肯定され、権力や特権意識を持つようになる。権力や特権意識は心地よく、人から判断力を奪うと言われる。優先順位のトップに選手ではなく自分を据えてしまえば、選手を育てる、選手の人生に責任を負うという意識は低くなる。やらせている、勝たせているという自己中心的な意識が強くなり、他人の視点で物事を見るという能力や謙虚さが失われる。

栄監督も、やはり「自己愛」の人? ©時事通信社

 気が小さければ尚のこと、弱い自分を見せないように虚勢を張って自分を大きく見せたいという意識が働くだろう。最初は強気で押し通すが、窮地に立つと隠れてしまうのはそのためでもある。「チキンハート」と至学館の谷岡郁子学長に言われたのは栄監督だったが、ある番組の中で今の気持ちを問われ、大きな色紙の真ん中に小さく「心」と書いたのは山根会長だ。文字は体を表すともいうから、会長の心の奥にあるのは実に小さな心ではないだろうか。