フエンテスが時代を味方につけた理由は「年長世代のエスタブリッシュメント 」への批判戦略にあり
イリノイ州のシカゴ近郊で生まれ育ったニック・フエンテスは2016年に高校卒業後、2017年にライブストリーミング『アメリカ・ファースト』を始めた。同年にヴァージニア州シャーロッツビルで開催され、死者も出たことで非常に悪名高い白人至上主義集会「ユナイト・ザ・ライト」への参加をきっかけに注目され、ボストン大学を中退し、自身の活動に専念するようになった。本人いわく2016年の大統領選に登場したドナルド・トランプによって、白人人口の数的な減少、移民問題を知り、穏健保守から明確な「アメリカ第一主義(America First)」者、ナショナリストに変わったという。
フエンテスはまた、大学時代にユダヤ系アメリカ人の保守の論客、ベン・シャピーロのメディア「ザ・デイリー・ワイヤー」の関係者と関わるなかで、アメリカの保守派が一様にイスラエル支持であることに疑問を抱くようになったという。その疑問をSNS上で発したところ彼はシャピーロから激しい非難を浴び、ここから米国のイスラエル支持反対はフエンテスの主義主張の核となった。他国であるイスラエルの利益を追求することは米国の国益最優先から明らかに離反しているというのがフエンテスの考えである。
アメリカ第一主義と親イスラエル政策批判。前者は現在のMAGAのポリシーであり、後者はMAGAのポリシーを否定し、その自己矛盾を真っ向から批判するものである。この二大ポリシーには、「極右」と言えるより暴力的なポリシーが紐づいている。
例えば前者にはキリスト教ナショナリズム、グローバリゼーション批判、白人至上主義、移民排斥、反フェミニズム、それに伴う有色人種差別、女性蔑視が連なり、後者にはホロコーストへの懐疑や反ユダヤ主義が連なるといった具合だ。ここで挙げた差別主義的な主張についてフエンテスは、明らかにそのように聞こえる発言をしつつも、尋ねられればそれは自分の主義ではないと否定してはいる。
フエンテスは上記の主義主張を、全体として「年長世代のエスタブリッシュメント(既得権益層)に対する若い白人男性の怒り」としてパッケージすることで「正当性」を担保し、彼と同世代、同じ属性の男性たちの心を掴んできた。
つまり国内産業の衰退、移民の増加、家賃・学費の高騰の結果、働けない、結婚できない若い白人男性の苦境を強調し、アメリカ第一主義と親イスラエル政策批判を、迫害される集団の当然の自衛的反応として正当化してきたのだ。フエンテスは、実家の地下室からストリーミングを始め、自らを、政府の失策の「被害者」であるニート〔=就学も就労もしていない状態〕でインセル〔=非自主的に異性との性交渉ができない状態〕の若年男性の代表として明確にキャラクター付けした。
フエンテスはMAGAと同様にアメリカ第一主義や白人至上主義を掲げ、民主党を批判するが、彼の戦略の核心はむしろ共和党の中心的立場である親イスラエルを批判すること、そして上の世代、特に「ブーマー〔戦後のベビーブーム世代〕を批判するという、世代上そして権力上の上下を強調する点にこそある。この戦略によって、フエンテスは時代を味方につけることに成功し、イデオロギー的な左右を超えて影響力を及ぼしている。
フエンテス支持者vsマムダニ、サンダース、グレタ支持者 反イスラエルで奇妙に一致する極右と極左
親イスラエル政策批判について言えば、2024年のピュー・リサーチ・センターの調査でも明らかなように、アメリカの民主党支持のZ世代では、パレスチナに同情的な意見が圧倒的に強く、共和党支持であっても他の世代よりは親パレスチナの割合が高い。
例えば左派の活動家グレタ・トゥーンベルグ支持を表明しているグロイパーもいるように、一見正反対に見えるフエンテス支持者(極右)とグレタ支持者(極左)は、反イスラエルという一点では一致できるようになる。しかもこのケースでは、白人であるグレタがパレスチナに援助物資を届けに行くことは、白人のキリスト教宣教師が未開の地に啓蒙しに行ったのと同じだという右派文脈に即した再解釈がなされ、極右から極左への越境が起こっているのだ。
また後者の「ブーマー〔=戦後のベビーブーム期に生まれた世代〕」を敵視する姿勢は、党派を越えZ世代に共有されており、リベラルが多いミレニアル世代の一部にも共有されている。
例えば昨年12月には、ミレニアル世代の白人男性が、2010年代にブーマー世代の白人男性によって主導されたアファーマティブ・アクション〔=マイノリティを優先的に採用する方針〕の犠牲になり、雇用において不利な立場に置かれたという告発記事がSNS上で大きな話題になった。ブーマー世代の白人男性が自分の罪悪感の解消のために自分より若い白人男性から雇用を奪ったという分析は、リベラルな年長世代に対するミレニアル世代やZ世代の男性の不信感、その結果としての右傾化を説明するものだった。フエンテス率いるグロイパーズ戦争は、こうした2020年代の空気に見事に連動し、影響力を拡大している。




