野沢が慌てて「無理無理。自分たちは声をあてに来ただけだし、そもそもぬいぐるみに入る訓練やお稽古をしていないので」と断ると、なんと手の空いていたデパートの若手社員がぬいぐるみに入ってショーに出演し、陰から野沢たちがアドリブで声をつけたという。野沢は後年「あの時はびっくりしたわよぉ」と笑っていたが、常に生の現場で鍛えられた世代の凄みを感じる話でもある。

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 現代では忘れられがちだが、『鬼太郎』以上に野沢の声を全国区にしたのは『いなかっぺ大将』(70年)の主人公、風大左衛門役だ。青森県から柔道日本一を志して上京する小学生で、当初は二枚目キャラだったのが途中から“いなかっぺ”ぶりが引き起こすドタバタに人気が集中しすっかりギャグ作品に。

 野沢の「わし、◯◯だス」や「どぼじでどぼじで」などのセリフ回しだった。子どもから大人まで多くの人が真似し、今でも60代以上の男性が口にするのを耳にすることがある。

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 その次に主演した、ジャンプアニメでもある吉沢やすみ原作の『ど根性ガエル』(72年)の主人公・ひろしの声でも野沢は大人気に。Tシャツに貼りついた平面ガエルのピョン吉や、すし屋の梅さんとの粋でテンポのいいやり取りは語り草となり、野沢の少年ボイスのスタンダードとなった。

「かーめーはーめー波~~!」のシャウトは健在

 そして野沢にとって最大の当たり役となる『ドラゴンボール』の孫悟空役と出会ったのは50歳の時だった。アニメ開始から40年が経とうとしているが今でも現役で、悟空の長男の悟飯、次男の悟天の声から子孫の声まで担当したことがある。少年は女性声優が演じることも多いが、父親ポジションを演じる女性声優はほとんど例がない。

 必殺技の「かーめーはーめー波~~!」のシャウトも声量は衰えておらず、バラエティ番組などで生披露されると出演者が本当に驚いていることが画面越しにも伝わってくる。