クリリン役・田中真弓さんとのあうんの呼吸
2018年から放送された『鬼太郎』のテレビシリーズ6期で、野沢さんは亡くなった田の中勇さんに代わって目玉おやじの声を演じたのも衝撃だった。鬼太郎の声優が目玉おやじになるのは自然ではあるが、それでも時間の流れに感慨を覚えた。
当時すでに80歳を超えていたが、アフレコではかつての『ドラゴンボール』同様にほとんど録り直しもなく、名人芸の不変ぶりを見せつけられた。
そしてアフレコ終了後、野沢さんは砂かけばばあ役の田中真弓さんとアイコンタクトを取ると、他の声優が使った紙コップなどを片付けはじめたので驚いてしまった。
田中さんは『ドラゴンボール』のクリリン役や『ONE PIECE』のルフィ役で知られる大ベテランだが、その2人が率先して後片付けをはじめたのだ。
もちろん新人の声優さんたちは「自分がやりますよ」と慌てたが、野沢さんも田中さんも「いいのよ、あたしらがやったほうが早いんだから。いつものこと」と気にもとめない。鬼太郎役の沢城みゆきさんやねずみ男役の古川登志夫さんらが邪魔しないように控えめにお手伝いに徹していたのも、本当にいつもベテラン2人が率先して片づけていることの現れだったのだろう。
片づけの最後に、部屋の隅にいた筆者に田中さんが近づいてきて飴を手渡しながら「はいこれ持って帰って。今舐めてもいいけど」と言うと、風のように去って行った。ご本人たちにそのつもりはないかもしれないが、これはもう「最高の新人教育だ」と思った。
最後に、佐藤製薬のCMで野沢さんと共演した声優の平辻朝子さんからお聞きしたお話をご紹介して終わろう。
野沢さんは佐藤製薬のオレンジ色のゾウのマスコットキャラ・サトちゃんを演じたが、野沢さんのサトちゃんの「なりっきりぷり」にすっかり感心して、アフレコ終了後に野沢さんに「野沢さんは悟空から何から同時にいろんな役を演られていますが、どうやって演じ分けされているんですか?」と聞いたという。すると、「だって画(え)を見ると自然にその声が出ちゃうのよ。役作りなんてしてないわ」とひと言。
ベテラン声優というのは全員アニメの仕事環境が整っていない時代から修羅場をくぐり抜けてきた人たちだが、その中から野沢さんが文化功労者に選ばれたことにも十分な理由があるということだろう。
