Giverかどうかは「動機」で決まる
楠木 まさにそうで、私が監訳を務めたアダム・グラントのベストセラー『GIVE & TAKE』の定義に立ち返れば、Giverかどうかは「giveの量」ではなく、その行為の「動機」という質の問題です。多くの人が誤解しているのが、giveの量がtakeの量より上回っている人をGiver、その逆がTaker(=奪う人)、とイメージしているんですが、将来のtakeを期待して与えている人は厳密にはGiverではありません。貸し借りとして釣り合うようにしていこうという動機なら、Matcher(=ギブ&テイクで行動する人)です。
本当のGiverは、見返りへの期待を持たず、与えること自体に意味や楽しさを見出している。この動機の違いが、結果として生み出すアウトプットの質を分けるんですね。
澤 僕は「タスクフォーカス」という考え方が好きなんですが、いまこの瞬間にフォーカスする姿勢がgiveにおいても重要だと思っています。個人的に興味深いのが、ボクシングの伝説的な選手であるメキシコのカネロが、メイウェザーに負けた歴史的な試合があります。無敗の王者が負けたのは、目の前の試合にフォーカスせず、その後の「ビッグマッチ」に気を取られていたから、足元をすくわれたとも言われています。
giveする上でも、目の前のことにフォーカスすることが大事なのであって、その先に何が得られるかを意識した瞬間に、giveの質は落ちてしまう。
庭師のように観察し、「先回り」する
楠木 澤さんは本のなかで、Giverを庭師にたとえていましたね。
澤 はい。僕自身、庭師さんには大変お世話になっているのですが、例えば大工さんの仕事には「家が建つ」という明確な“完了”がありますが、庭師の仕事はずっと“継続”していかなければなりません。
その庭をずっと観察し続け、「今日は植物の調子が悪いな」「芝の手入れをしよう」と、瞬間にフォーカスしつつ、プロの知見を「先回りで」提供し続ける必要があります。木が枯れてから対症療法的に何かをするのではなく、観察して先にgiveしないと庭が良く保たれないですし、顧客の好みを踏まえて、今度こんな木が入ったんですけどどうですか?と提案もします。
つまり、きちんと「観察」し、相手とのコミュニケーションのなかで先にgiveしていくあり方は、Giverの本質そのものです。すぐれたGiverタイプの経営者やリーダーに共通する資質だとも思っています。
楠木 なるほど。その話を聞いて思い出したのが、歴史上の経営者で言えば、阪急グループ創設者・小林一三さんは究極のGiverだったと思います。彼は私鉄と都市開発を連動させる世界に類を見ない日本モデルを作りましたが、その手法を競合他社となるはずの西武や東急の経営者たちに惜しみなく教え、指導までしていました。
自ら成した「田園都市」というコンセプトに共鳴した人がいれば、「じゃあ、やりなよ」と全てノウハウをあげてしまう。そこから上がりを取ろうとはせず、単なるビジネスの取引を超えてgiveを行動に移した大経営者です。

