ハムレットの思索やリア王の悲劇の表現は得意だが……

 生きていくためには、文学の力がどうしたって必要なのだ。言葉で説明できることだけで暮らしていけるうちはいい。しかし、そうはいかないときがある。そういうときは、たいていピンチだ。文学は命綱だと思っている。

 しかし、その文学でさえ、痛みについての表現が充実しているとは言えない。

 文学における病気の描写を妨げるのは、言葉の貧しさだ。英語は、ハムレットの思索やリア王の悲劇を表現できるものの、悪寒や頭痛を表現する言葉をもたない。

 一方だけが発達してしまったのだ。

 

 ヴァージニア・ウルフ『病むことについて』川本静子編訳 みすず書房

 それでも、なんとか文学の中からいい表現を探し出し、並べて、さらに新しい表現を生み出すためのヒントにしたいというのが、本書で目指していることのひとつだ。

痛いところから見えるもの

頭木 弘樹

文藝春秋

2025年9月11日 発売

最初から記事を読む 「便が口から出るのよ」看護師の言葉に驚愕……潰瘍性大腸炎の私が今度は「詰まる」地獄の痛みに襲われるまで