一般的に「福音派」といえば、プロテスタント教徒を指すキリスト教用語。だが本書が取り扱うのは、アメリカの歴史の中で独自の発展を遂げた、特殊な宗教集団としての「福音派」だ。
著者は思想史・宗教学が専門の大学教授。延べ十五年の在米経験があり、現地で福音派の人々と間近に接してきた。そんな著者曰く、米国の福音派は、神の言葉としての聖書、個人的な回心体験、救いの条件としてのキリストへの信仰、そして布教を重視する、宗派の壁を超えた宗教集団であり、運動なのだという。
強力な政治勢力として台頭したのは1970年代からだが、そこに至るまで二十世紀初頭から長い歴史を積み重ねてきた。第二次トランプ政権の誕生を支えた有力な支持基盤でもある。2025年9月に銃撃された保守活動家チャーリー・カークも福音派であり、この事件を機に福音派はますます注目を集めることになった。
しかし日本では、実態を肌で感じられない。その需要に応える本として部数を伸ばしてきた。
「私も著者にお会いするまでは、福音派の存在こそは知っていたものの『アメリカで先鋭的な主張をしている宗教の人たち』ぐらいの認識しかありませんでした。そして企画の際に調べてみると、日本語で読めるアメリカの福音派についての手軽な本は、ほとんど刊行されていないことがわかりました。ですから、アメリカ社会の分断の背景などを理解できるような本を出すことに意義があると感じたんです」(担当編集者の上林達也さん)
トランプ以前から、ジミー・カーター、ロナルド・レーガン、ジョージ・W・ブッシュといった大統領たちの躍進にも福音派は寄与してきた。巧みなメディア戦略を行い、政権の中枢に人材を送り込む。福音派内部の事情を追うだけではなく、現実の政治や社会との接点を具体的に示す。同時にそれは、血の通った存在として個々の福音派の人々の姿を読者に示すことにも繋がっている。
「福音派を悪魔化しないことは、著者も私も強く意識していました。巨大な勢力ですから、思想や主張の濃淡も多様で、もちろん気さくで善良な人も大勢いる。だからこそ問題が根深いことも、本書から伝わってくると思います」(上林さん)
