近年、クマによる人身被害が過去最悪のペースで増加している。ショッピングセンターに侵入し、住宅地を闊歩するクマたち。なぜこれほどまでに人里へ近づくようになったのか。

 東京農工大学の小池伸介教授は、40年にわたる「分布域の拡大」と「警戒心の低下」、そして「誘引物の存在」が複合的に作用していると指摘する。文藝春秋PLUSの番組「+SCIENCE」でのインタビューから、クマ出没の構造的な背景を追った。(全2回の1回目/続きを読む

【熊と人間“共生不可能”という現実】市街地に出没する熊…なぜ人里に|原因のひとつは「ドングリの不作」|行政にはプロが足りない|過疎化…都市集中…緩衝地帯の減少【東京農工大学・小池伸介教授】

(初出:「文藝春秋PLUS」2025年12月14日配信)

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40年かけて進んだ「棲み分け」の崩壊

 過去40年間で、ツキノワグマの分布域は約2倍に広がった。小池教授によれば、この変化は人間社会の構造変動と深く結びついている。

「かつては奥山に熊が生息し、平地に人が暮らし、その間の中山間地域が『バッファー』として機能していました。しかし少子高齢化と都市への一極集中が進み、人々は中山間地域から撤退していった。耕作放棄地が森に戻り、そこが新たなクマの生息地になっていったのです」

©︎PantherMedia/イメージマート

 中山間地域という緩衝地帯が失われた結果、クマの生息地と人の生活圏が隣接、あるいは重複する状況が生まれた。こうした環境で生まれ育ったクマは、「人を見慣れた存在」として認識し、警戒心が低下している可能性があるという。

どんぐりの凶作が引き金に

 特に昨年夏から甚大な被害となった要因は、秋の主食であるどんぐり類の大凶作だ。しかし小池教授は、これを「温暖化」と結びつける報道に疑問を呈する。

「どんぐりの凶作は自然のリズムです。木は一定の間隔で豊作と凶作を繰り返す。これは繁殖戦略であり、温暖化とはほとんど関係ありません」

 複数種のどんぐりが同時に凶作となる年は数年に一度訪れ、その度にクマの大量出没が起きてきた。問題は、凶作そのものではなく、凶作時にクマが「森の外」へ出る動機と環境が整ってしまったことにある。