「保健室に行くと、先生が傷口を見てすごくびっくりして『どうしたの?』と聞かれました。その瞬間に『もし本当のことを言ったら、後で仕返しをされるんじゃないか?』という強い恐怖が頭をよぎったんです。Aは普段から教師の言うことも聞かない、いわゆる“やんちゃ”な生徒として知られていました。過去には女子生徒の手にシャーペンを突き刺したり、暴力を振るったという物騒な噂も聞いていた。

 その恐怖心から、僕はとっさに『転んで教室の机の金具に引っ掛けた』という嘘をついてしまいました。先生はダバダバと溢れ出る血を止めることに必死で、僕の嘘がそのまま通ってしまったんです」

 ダイキさんが保健室で治療を受けていた13時30分頃、ダイキさんの母親は職場で学校からの電話を受けた。

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「息子さんが怪我をしてしまったので、すぐに来てください」

 電話口では詳細な説明は一切なく、母親は「休み時間に遊んでいて転びでもしたのかな、大きな怪我でなければいいけれど」と不安を抱えながら、職場を早退して車を走らせた。

学校側は救急車を呼ぶなどの対応を一切取っていなかった

 学校に到着し、保健室のドアを開けた瞬間、母親は自分の目を疑った。

「怪我をした膝の部分を見ると、制服のズボンが20センチ近くも切り裂かれていて、その下に傷口が露出していました。膝の傷跡は6~7センチに及び、深さも1センチほどあって、中の肉が見えている状態でした。ダイキは教室から自分で足を引きずって保健室へ向かったようで、保健室の前の廊下まで血みどろになっていました。しかしこの時点で息子は『他人にやられた』とは言わず、私もまさか同級生にカッターで切られたなんて、夢にも思っていませんでした」

ナイフで切られた傷口が痛々しい

 保健室では教師が包帯を巻いて止血を試みていたが、「血が止まらない」と処置が難航していた。これほどの重傷でありながら、学校側は救急車を呼ぶなどの対応を一切取っていなかったのである。

「とにかく一刻も早く病院へ連れて行かなければと思い、私の肩を貸して、ダイキにケンケンをさせるようにして近くのクリニックに担ぎ込みました。結局、傷口は5~6針ほど縫うことになりました」