この、イヴと同様のケースを取り上げたドキュメンタリー『我々の父親』(Our Father)を、Netflixは『1000人〜』リリースの2年前、2022年に公開している。判明しているだけで少なくとも94人の子供を不当な精子注入で出産させた不妊治療医、ドナルド・クラインについてのドキュメンタリーだ。
『1000人~』は精子提供を受けて子供を産んだ母親たちが“シリアル精子ドナー”を追い詰める物語だが、『我々の父親』は医師から母親への精子注入によって生まれた子供たちが、成人後に生物学上の父親である医師の所業を解き明かしていく。
患者に自身の精子を注入して…
米国インディアナ州で最も優れた不妊治療医と呼ばれたドナルド・クライン(1938年生まれ)は1974年から1987年にかけて、多くの患者に自身の精子を注入して妊娠させた。
当時は未婚の女性が不妊治療を行うことはなく、患者は既婚女性たちだった。夫が健康な精子を持つ場合は夫の、そうでない場合は医療インターンの精子を使うこととなっていた。しかしクラインは患者を診察室に待たせて別室で密かに射精し、その精子を患者に注入した。患者の妊娠率は高く、クラインは優れた不妊治療医師として名声を得、地域社会や所属する教会においても大立者となった。
DNAテストによって発覚した、膨大な数のきょうだい
そうして生まれた子供たちの一人、ジャコバ・バラードは10歳の時に自分は精子提供によって生まれたのだと知る。そのジャコバが大人になった後に、「23andMe」「Ancestry」といった家庭用のDNAテスト診断キットが販売され、ブームとなった。唾液サンプルを送ると、例えば「あなたのDNAはアイルランド系70%、スコットランド系20%、ドイツ系10%」などといった解析結果とともに、すでに診断を行っている人の中から自分と同じDNAを持つ人のリストも送られてくる。
ジャコバは遺伝子診断により、自分には半分血の繋がったきょうだいが7人もいることを知った。不可解に思ったジャコバは7人に連絡を取り、かつリサーチを行い、自分たちはクラインの精子によって生まれたのだと知る。やがて、この件を地元メディアが大々的に取り上げた。その間にも23andMeを通してジャコバを含む8人と遺伝子を共有する人が次々と浮上し、きょうだいの数はどんどんと増えた。
罰する法律がなく、わずか500ドルの罰金のみ
2016年、ジャコバはクラインに対して訴訟を起こすが、クラインの行いを罰する法律がなかったことから、クラインはわずか500ドルの罰金を科せられたのみだった。
クラインは診療室に聖書からの言葉を額に入れて飾っていた。
「私はあなたを母の胎内に造る前から あなたを知っていた(エレミア書1:5)」
(つづく)
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