東京ドーム7個分の広さに、欲望と現金が渦巻く日本一の歓楽街、歌舞伎町。この街では夜な夜な、ある“狩り”が行われている。
「梅酒を1杯飲んだだけで15万円請求された」
「軽く女性に触れたら24万円と言われた」
そんな被害は、もはや珍しくもない。なぜ、何度摘発されてもぼったくりがなくならないのか。フリーライターの本橋信宏氏が監修を務めた『東京アンダーグラウンド』(大洋図書)の一部を抜粋し、その悪魔のシステムについて紹介する。
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変わらぬ不夜城、変わる手口
新宿のほぼ中央に位置する歌舞伎町は、面積わずか約0.34キロ、東京ドーム7個分ほどの広さしかない。そこが国内最大の歓楽街として知られ、その名は不夜城の象徴となっている。北は職安通り、南は靖国通り、東は明治通り、西は西武新宿駅前通りに囲まれ、飲食店、風俗店ビル、ゲームセンター、クラブが密集しており、日が落ちるとともに昼とはまるで異なる非日常世界が展開される。
キャッチとポン引き――ぼったくりの仕組み
歌舞伎町の危うさは、歓楽街としての顔と闇社会との交錯にある。ホストクラブや風俗店、闇金融、半グレ集団、台湾系ネットワークといった国内外の勢力が入り混じり、詐欺や暴力事件、違法賭博、薬物取引が表出しやすい環境をつくり出してきた。都内のほとんどの盛り場と同じで、この街も戦後の闇市から発展してきた。店舗の入れ替わりや摘発の歴史を通して、法の手が届きにくい「裏側」が形成されてきたのである。
この街を象徴する事件のひとつが、いわゆる「梅酒1杯15万円事件」である。三十代の風俗オタクが店の女の子たちをはべらせてはしゃいだ。みんなに梅酒を飲ませて、本人が口を付けたのはたった一杯。さらには軽く女性に触れただけで24万円の請求を受けた。
結局15万円にまけてもらったが「“払わないならいいよ。息子はこんな馬鹿な遊びしてるんだ”ってお父さんに電話するよ」って脅され、「ごめんなさい!」と泣き出して払ったという。
この事件は、歌舞伎町における悪質なぼったくりの象徴的事例として語り継がれている。
歌舞伎町のぼったくりは、フリーランスの客引き、いわゆるキャッチやポン引きによって成立している。キャッチは店専属で契約しており、酔客に声をかけて店へ誘導する。5千円ぽっきりの簡単な言葉で誘い込まれた客は、店に入った途端、8万から10万の請求に直面する。驚くべきことに、徴収された金額の二割がキャッチの取り分としてバックされる。この「理詰めでの取り立て」は、店の家賃や人件費といった経営数字を盾に客を説得する手法として、長年暗黙のルールとして行われてきた。
ポン引きの場合はさらに巧妙で、客に女性をあてがいながら、必要に応じて追加料金を請求する。女の子が生理だといって代わりの女性を呼ぶ際や、六本木から女性を連れてくるといってタクシー代を取るなど、まさに「抜け目のない」仕組みだ。客は酔いと欲望で正常な判断力を失いやすく、ポン引きの目論見通り、財布を開くことになる。
