東南アジア発の中華系特殊詐欺を追っている私は、半年ほど前にある日本国内の被害者から相談を受けたことがある。多少の情報を伏せて述べると、この高橋さん(仮名)は西日本の地方在住の前期高齢者。地元ではかなりの資産家らしく、特殊詐欺に数千万円を騙し取られたという。

 その手口はこうだ。SNS(Meta系)の高級車コミュニティで、自身の投稿にコメントしてきた日本人名を名乗る30代の美しい女性・川上晴子(仮名)がいた。何度か交流した後に直接のメッセージで会話したところ、日本生まれだがシンガポール育ちとのことだった。(全4回の3回目/つづきを読む

ラオスの中国系経済特区・金三角特区にある超豪華カジノホテル。超ゴージャスな暮らしはすぐそこに……。2025年2月25日、筆者撮影。

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晴子が仕掛けた「詐欺の手口」

 晴子はワインやゴルフなど富裕層らしい話題の引き出しが豊富で、高橋さんがどんな話を振っても、豊富な知識量ですぐに答えてきた。晴子はときおり、食事や旅行先の写真やパーティーで自分が写っている写真を送ってきたり、1度だけだがWeb電話で通話をしたりした。彼女は若くして成功したセレブに違いない。高橋さんは好感を抱いた。

 やがて、晴子は(きん)と仮想通貨の投資を提案。高橋さんは指示に従い海外製の投資アプリをダウンロードし、最初に数十万円を試したところ、収益が上がった。いちどカネを返してくれと話すと、実際に振り込まれた。高橋さんは晴子を完全に信用し、彼女も「日本で高級高齢者レジデンスを共同経営しましょう」「いっしょに安定した老後を」と囁く。高橋さんの投資額は、いつしか数千万円に膨れ上がって……。晴子と連絡が取れなくなった。特殊詐欺だったのだ。

 話を聞いたところ、晴子を名乗った詐欺師は中華系のバックグラウンドがあるように思われた。おそらく、彼女が即レスして語っていたワインやゴルフ・高級車の該博な知識は、AIによるもの。通話も日本語や英語が話せる人が肩代わりしたか(男の声を女声に変えたかもしれない)、短時間の場合はAIだったと思われる。

 もちろん、ゴージャスな食事やパーティーの写真なんか、ネットで拾ってもAIで作っても、なんとでもなる。この手の被害はすくなくないらしく、ネットで調べるといくつか被害者らしき人の書き込みが見つかる。

廃墟で見つけたロマンス詐欺ノート

 この話を私が紹介するのは理由がある。前回記事で紹介した、ミャンマーの中華系(福建系)特殊詐欺園区に潜入した台湾元特殊部隊員で新北市市議の林秉宥(リンビンヨウ)。軍閥に制圧された園区の廃墟で、彼は詐欺師たちが残した自筆のノート数冊を拾って台湾に持ち帰った。中国語で書かれたノートの実物を確認してみると、手口やノリが冒頭の高橋さんの事例とよく似ていたのである。

壊滅した順達園区で、詐欺師たちが残した文献を回収する林秉宥。本人Facebookより。

 ノートの執筆者たちは中国人で、チームのターゲットは30代以上の台湾人女性。とはいえ、おそらく別のグループによる日本人ターゲットのロマンス詐欺にも応用されていると思われる。今回の記事では本邦初、特殊詐欺師の肉筆ノートの内容を紹介して、彼らの手の内に迫っていくことにしよう。