ノートに記された“戦慄の支配術”
まずは、「顧客」(中国語で客戸。彼らは詐欺ターゲットをこう呼ぶ)に接触する前に、ロマンス詐欺にふさわしい魅力的な人物のキャラ設定がおこなわれる。このマニュアルに基づいて実際に詐欺に従事するのは中国人だが、国籍は台湾人や香港人・シンガポール人などを装う。冒頭で紹介した高橋さんの詐欺エピソードを彷彿とさせる話だ。
今回の場合は顧客が台湾人女性なので「10歳まで台湾で育ち、その後は中国大陸で暮らしている男性」といった設定が推奨されていたようだ。いちおう台湾の「同胞」だが、電話やチャットの際に中国大陸っぽい言葉を使っても怪しまれないための工夫だろう。
本人の年齢や身長、星座、干支などはもちろんのこと、父親は建築家で母親は行政職、姉は教師など、具体的かつ信頼されやすい架空実家の家族構成や、以前の台湾国内の住所なども綿密に設定する。さらに、キャラの性格設定については、マニュアルはこう語る。
「顧客に崇拝される方法:まず博学であること。顧客よりもレベルが高い必要がある。知識量、財力、知性、メンタル、すべてにおいて上回ること」
「人を治める前に自分を治めよ。常に正能量(ポジティブな情報発信)を続けよ」
MBTIとタロットで落とせ
親孝行で仕事熱心、家族思い、大人で落ち着いた性格だが知識豊富でユーモアがある男性を装え……、といった記述もある。日本人の感覚だと「博学」はモテに直結しないが、台湾を含む中華圏は文化資本の有無で社会的地位をジャッジされたり、「頭の良さ=カネを稼ぐ力」という認識が強かったりする。物知りハカセはモテるらしい。
趣味についても、海辺で思索にふける、ゴルフ、読書、釣り、ワイン、料理研究などが好印象とのこと。台湾人女性が好きなMBTI(性格診断)、星座やタロット占い、カフェ、火鍋、タピオカなどの話題を徹底的に研究し、さらに台湾の観光・グルメ・文化・人文の知識をつけよ、気の利いた名言や小話を覚えておけといった記述もある。
ターゲットはおおむね30代以上の小金のある台湾人女性。重点的にマークするべきは、化粧品、不動産、EC、金融、医療・看護、貿易、飲食などの業界の人たち。フェイスブックの友達数は200~500人程度が望ましく、1000人以上は避ける。自撮り写真がそれなりにある人を選ぶ。つまり、それなりに社交的でユルいが有名人ではなく、いっぽうで一定の成功欲や自己顕示欲がある人を狙えということだろう。
人民元を使っている人間(=中国人や、中国大陸の事情がわかる人間)とは最初から会話するなという指示もある。銀行口座に給料の3カ月分以上の貯金があることを、雑談のフリをして聞き出すことができれば、作戦開始だ。彼女を恋に落とし、カネを奪い取るのである。

