大学卒業後の1986年、小中は『星空のむこうの国』で商業映画監督としてデビューする。思春期の少年が迷い込む、パラレルワールドと思しき世界。だが、その世界がどういうものなのかは、声高に説明されない。観客はパートカラー、オプチカル合成(自作のプリンターだったという)など、さまざまな手法を使って描かれる実験精神にあふれた美しい映像から、その主題を理解することになる。

 大林や蓮實の薫陶と、多くの出会い・経験をもとに、小中が理想の映像を焼き付けた一本だった。

蓮實重彦氏(撮影:藍河兼一)

映画の魅力にとりつかれたすべての人に

 その後、さまざまな商業作品を成功させた小中は、2023年に自身の8ミリ映画時代をモデルにした青春映画『Single8』を監督。妻の明子をプロデューサーとした自主製作作品だった。

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 それは、小中の私淑する大林宣彦が、商業映画の成功を経て、妻・恭子と娘・千茱萸の協力を得て「自分の撮りたい」表現を追求するために、自主製作の世界に帰ったのと同じ道程だった。

 本書に登場する監督のなかで、唯一、若き日に8ミリカメラを手にしていない是枝裕和は、『Single8』の魅力をこう語っている。

〈8ミリを撮ることのワクワクとか発見とか映画を好きになっていくプロセスとか、もしくはファインダーの中で女の子を好きになっていくとかさ。そういうことがたくさん自分の体験のようにワクワクできる素敵な映画〉

 つまり、小中は8ミリカメラで感じた自らの原点、「映画の快楽」を作品化したのだ。本書も、小中の原点回帰の延長線上に位置するものだろう。

小中和哉(撮影:藍河兼一)

 作風も思いも異なる監督たちの発言のなかで、唯一共通するのは、映画というものが持つ魅力にとりつかれた点なのだ。

 本書は、かつて8ミリカメラを手にした人だけではなく、映画の魅力にとりつかれたすべての人に向けられた一冊である。

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