上村 自分でもメダルは獲れると思っていました。五輪の前シーズンまでは、スキー板をずらさずに雪を切りながら滑るカービングターンの評価が高かったんです。当時、その技術を取り入れていたのは私だけで、多少ミスしても高い得点が貰えていました。

 特に女子選手は、ズラしやスキーのテールをコブに当てて滑る技術が主流で、ミスは少ないけどターンの最高得点が出る技術ではない、という流れだったんです。

――美しいカービングターンは、上村さんの武器でした。
 
上村 五輪までは少しミスしても勝てていて、このパフォーマンスで高得点が獲れるんだっていう経験をしてしまったので……。強みであるターンを磨くことに注力していて、細かなミスがないように完成度をあげるとか、そういう穴埋めの作業を見落としていたのかなっていう気はしますね。

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2010年バンクーバー五輪での上村愛子さん ©JMPA

物議をかもした採点基準の変更

――当時、採点基準の度重なる変更が、物議をかもしていましたね。

上村 カービングじゃないと最高評価を得られないというのはフェアではない、と声が上がったそうです。それで、五輪直前に流れが変わってしまいました。

――上村さんが追求してきた高度な技術が、得点上不利になってしまった?
 
上村 一概にそうではないのですが……。カービングターン以外の要素も加味して評価していこう、となったのです。私の勝手な想像ですが、カービングターンじゃないと高得点が出せないとなると、多くの人がカービングターンに挑戦しますよね。そうするとモーグル全体のスキーレベルは上がるけれども、それ以外の技術はモーグルでは勝てない、となってしまう。それではモーグル競技人口の間口も狭くなってしまうような気もします。

 また、コブをあんなスピードで滑り降りてくるのにミスをしない、というのもモーグルならではの技術ですし、カービングターンだけでなく、上半身の安定感や的確な吸収動作なども含めて一連の流れとしてスムーズにターン出来ているかどうか。評価の基準を、より“モーグルらしさ”を加味しつつ考えられた結果だと思っています。
 
 ちなみに、現在もカービングターンは大切な要素の一つです。上半身の安定と吸収動作も同じ程度に大切な要素。だから、確実にあの頃から繋がっているのは、「表彰台に上がれるのはミスが少なく技術の高い選手」ということになります。

「4」という数字を見た時に思ったこと

――それでも、難しい技術が評価されないのは腑に落ちないですね。
 
上村 当時は採点基準がどうなるのか、ジャッジはどこに重きを置くのか、選手にはよく分からず、今年はどうなんだろうって選手同士でよく話していました。だから、バンクーバー前年のW杯で総合優勝したときに、「ジャッジの方に私の滑りを認めてもらえた」って、自信が持てたんです。

 滑り終えて「4」っていう数字をみたときに、自分の想像をこんなふうに裏切られる事があるんだ、って思いました。でも、あとから振り返れば、仕方なかったのかなとも思うので。

 

 ただ近年は、採点基準や減点要素などが明確に記されたジャッジングハンドブックがFIS(国際スキー連盟)から発表されていますし、その年の変更点もきちんと明記されています。特にオリンピックではハンドブックに則った採点となるので、チームやコーチ、また選手らはそのハンドブックを理解しながら戦略を立てられるので、ジャッジの採点に疑問を持つこともほとんどなくなりました。