松江市は現在、松江城をユネスコの世界文化遺産に登録することを目指しているが、マンションが建ったことで、黄信号どころか赤信号が灯ったことはまちがいない。

ユネスコが登録のためにもうけている種々の条件のひとつに、バッファーゾーン(緩衝地帯)の設定がある。松江城であれば、城域の周囲にそれを保護するための地帯を設置し、景観を保全するために、条例で土地や建物の利用を規制することが求められる。

具体的には、建築物に高さ制限をもうけ、素材や色彩などを周囲の景観と調和させることも必須である。前述のように松江市がようやく取り組みはじめた景観計画は、ユネスコの条件も意識したものだと思われる。

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しかし、現実に、島根県庁が建つ松江城旧三の丸の向かい側で、かつて上級武士の屋敷が並んだ松江城下の中枢である殿町に、19階建てのマンションが建ってしまっている。景観を考えたとき、すでに松江城には、世界遺産に登録されるべき価値がなくなった、と考えたほうがいいのではないだろうか。

私企業の利益追求で街が破壊される

要するに、歴史都市の歴史エリアに一棟の巨大なマンションが建つということは、潜在的な価値をそれほど大きく毀損するということなのである。

そもそも、なぜ高層のマンションが建つかというと、土地の所有者や建設業者が一定の土地から利益を最大限に得ようとするからである。しかも、ディベロッパーは売り切ってしまえば、以後はなんら責任を負わなくていい。こうした私利追求のために公共の利益が大きく損なわれるという事態に際して、地方自治体がまったく無策に終始し、公共の利益を守れなかった、というのが松江市の事例である。

私企業の利益追求の結果としての1棟の巨大なマンションは、周囲の環境を圧迫することで、地方自治体が第一義的に守るべき「住民の生活向上や福祉の増進」に抵触する。とりわけ松江は、前述したように、奇跡的に破壊を免れた世界に誇るべき遺産である。それが私企業の利益追求のために破壊されるという事実に、えもいわれぬ無力感を覚える。