甲山学園は外部から隔離された空間で、外部から何者かが侵入した形跡もない。警察は内部の大人による犯行として捜査を進めていく。

警察が逮捕したのは…

 連日にわたり、職員や園児の事情聴取が行われるなか、1人の保育士が捜査線に浮上する。短大卒業後、甲山学園に就職して2年目の山田悦子さん(同22歳)。Sくんが行方不明になったことがわかった3月19日20時前後のアリバイがなく、園児の1人が「悦子先生がSくんを連れて行くのを見た」と証言していた。

 といっても、園児が目撃したのは浄化槽近くではなく、山田さんがSくんを部屋から連れ出す場面。これだけでは嫌疑を向けられる理由にならない。

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 ただ、彼女には普段から園児に折檻を繰り返しており、Mさんに対しても「言うこと聞かないと、ここに落とすよ」と浄化槽の蓋を開けて見せていたという噂があった。が、山田さんは事情聴取で「折檻など一度たりともしたことがない」と断言している。

 警察が彼女を疑ったのには、他にも理由がある。MさんとSくんの遺体が発見されたとき、山田さんは異様に取り乱していたという。「Mちゃんが死んだ」と喚き散らし、2人の葬儀が執り行われた際にも号泣し霊柩車を追いかけていたそうだ。

写真はイメージ ©getty

 こうした行動も普段面倒をみている保育士なら何ら不自然ではないのだが、警察の見立ては違う。山田さんの行動は捜査を撹乱するための演技ではないかと疑ったのだ。

 こうして、警察は確たる状況証拠すら持ち得ないまま、事件発生から21日後の4月7日、山田さんを殺人容疑で逮捕する。

次の記事に続く 「よく平気な顔を」2人の園児を殺したのは誰だったのか? “無実の罪で逮捕された”女性保育士が完全無罪を勝ち取るまで(昭和49年の冤罪事件)