〈ぬけぬけと釈放されおって〉〈よく平気な顔をしていられるものだ〉など、心ない誹謗中傷の手紙が届いたことも……。
50年前に起きた冤罪事件。園児2人を水槽に落として殺害したと疑われたのは、当時22歳の女性保育士・山田悦子さん。無実の彼女は、なぜ逮捕され、そして長い法廷闘争を経て完全無罪を勝ち取ることになったのか? 新刊『世界で起きた恐怖の冤罪ミステリー35』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)
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「おまえがやったからだろ」
取り調べは1日12時間にもおよんだ。警察は「あんたの父親は、あんたがやったのではないかと疑っている。学園の職員たちもあんたを疑っている」と嘘をつき「1分1秒のことを詳しく説明しろ。思い出せないのは、おまえが無意識にやったからだろ」と連日にわたり追及。
精神的にも肉体的にも限界に達した山田さんは逮捕10日後の4月17日、偽りの自白をしてしまう。その自供調書には次のような文言が並んでいた。
〈今夜は本当のことを申し上げます。MちゃんとSくんをやったのは私に間違いありません。本当のことを言う気になったのは、MちゃんとSくんがあのマンホールの冷たい中で、どんなに苦しんだか、どんなに怖かったか。その苦しみを考えるときに私の苦しみなどは何でもありません〉
実は、この自白調書は警察による完全な捏造である。
実際は「あんたがMちゃんとSくんを手にかけたんだね?」と聞かれ、これまでの過酷な取り調べに疲れ果てていた山田さんが降参するように「はい」と答えただけだった。絶望した彼女はその夜、留置場の中でハイソックスを首に巻き付け自殺未遂を起こしている。
