旅に出るとヤドカリのように人の別荘を渡り歩き…
澤 田中さんは富裕層のマインドセットとして、ノブレス・オブリージュについても書かれています。これは日本人には馴染みの薄い概念です。僕は海外に住んでいたのは高校時代のホームステイくらいで、あとは全部出張だったので、海外のカルチャーは独学で学んできた経緯があるのですが、あらためてこの言葉の背景を解説してもらえますか。
田中 僕自身、海外の留学経験がない「純ジャパ」ですから、海外のカルチャーに合わせていくのに時間がかかったくちですが、ノブレス・オブリージュは「持つ者は社会的な責任を伴う」という考え方です。
大きなお金を手にした人でも、努力してなにかを成した人でも、やっぱりそれを得られたのは誰かのおかげだし、社会のおかげだし、地球のおかげでもある。例えば会場のみなさんの多くは日本国籍をもっていて、東京圏内に自由にアクセスできて体を自由に使えるという恵まれた条件があります。そういう自分が受け取ってきたものを、一部は社会に返していく義務があると捉える概念です。
僕は30代前半までは全くそんな気持ちはなかったんですが、いろいろな成功者たちを見ているうちに、「ああ、この人たちは自分の持てるものを無償で分け与えているな」と気づいたんですね。どう考えても勝ち目があまりないスタートアップにお金を投じたり、困っている人に寄付したり、自分の人的なネットワークを夢のある若者につないだりしている。
僕自身、お金もちの先輩たちの各地の別荘を「好きなだけ使っていいよ。中のワインも自由に開けてよ」と言われて、軽井沢からハワイ、フランス、カリフォルニアまで、旅に出るとヤドカリのように人の別荘を渡り歩いていた時期が7年ほどありました。だから、自分がgiveされてきたものをそろそろ社会に返さなきゃと考えていくようになって。
20代で早くから成功した人は鬱が多い
澤 7年ってずいぶん長いな(笑)。人からgiveされた経験って、人生に大きな影響がありますよね。僕の30代を振り返ると、世の中を呪ってました。いま思えば自分の努力が全然足りなかっただけなんだけど、仕事がうまく回りはじめたのは30代後半くらいからで、40代になってからようやく形になった。でもある意味、早いうちに成功しなくてよかったと思っています。Giverのマインドセットをつくるには、苦労した経験や失敗体験が不可欠ですから。
田中さんも、ゴールドマン・サックスに入るのに53回面談に挑んだとか、ずいぶん苦労してきたんでしょう?
田中 面談ネタはもう180回くらい使い古してきた話ですが、いま僕がちょっとだけメディアに出られているのも、少年ジャンプ理論で「エリートではなく、苦労してダメだったところから這い上がってきたやつ」だから共感してくれているのだと思います。
まわりを見ていても、20代で早くから成功した人の鬱がすごく多いんですよね。たまたま運が良かったとかマーケットの地合いの良さで金銭的に満たされた人が、社会関係資本が成熟していなかったり、人生経験の少なさから、悩んでいるケースが。

