Giverのマインドがあるとチームビルディングやマネージメントがどう劇的に変わるのか? 『The Giver 人を動かす方程式』が話題を呼ぶ澤円氏と、投資家の田中渓氏、ともに外資系トップの大企業でマネージャーを務めてきた二人が「一流のチームメイトたちも動かす」声かけの真髄を明かす。

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澤円氏(左) 撮影・細田忠(文藝春秋)

管理部門やサポート部門の仕事に光をあてた

 外資系の厳しい環境をサバイバルして、マネージャーの立場になっていった田中さんの仕事ぶりもうかがいたいのですが、当時とくに心がけていた点はなんですか?

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田中 ゴールドマン・サックスでも外資系に多い「360度評価」という人事評価で、上司だけでなく、部下、同僚、さらには他部署や海外拠点からも評価される仕組みでした。上司の評価を得るのは媚びれば比較的簡単ですが、同じことを下にやっても嫌われるだけ。後輩や部下のために惜しみなく自分のリソースを割く必要性を痛感しました。

 でもそれを十分やるには僕の力が及ばなかったので、あえて戦略的にとった方法が、まさに澤さんが『The Giver』に書かれていた「シャドウ・ワークに光をあてる」こと。

 トレーダーはわかりやすく数字でパフォーマンスが表せますが、いわゆる“見えない仕事”、管理部門やサポート部門の方々に大きく助けてもらっているわけです。なかなか定量的に評価しづらいその方々の仕事をよく観察し、「ありがとうございます」と伝えて、具体的にどう助かったのかを、日頃からその方の上司にフィードバックしていました。

 結果、おそらくサポート部門の方々から評価されて、僕は昇進したんだと思います。あの人を持ち上げておけばみんなが働きやすくなるだろうって。

 田中さんはそうやって周囲の人々のなかで「信用貯金」を貯めていったわけですね。「ありがとう」という感謝やポジティブなフィードバック、そういう行動はできるだけルーティンにして自動化することが大切で、意識せずに自然にgiveできると、結果として大きなリターンも返ってくるサイクルが生まれますよね。

最上位の賞をもらうも“ゼロリセット”

田中 会社に大きな利益をもたらすとか、すごく尖ったスキルがあるとか、会社員として点数を稼ぐポイントっていくつかあると思うんです。自分はそこで、「信用される奴」になろうと決めた。言ったことは誠実にやる、小さなことでも丁寧にコツコツやる。信用って小さくとも実践していけばきちんと積み上がる「加点方式」です。

田中渓氏

 でも同時にこれは「減点方式」でもあって、小さなことでも不誠実だと、気がついたらすごく“信用のない奴”になる。信用を積み重ねることは、どの会社にいっても再現性の高いポータブルスキルだと思っています。

 澤さんがマネージャーになったきっかけも教えてもらえますか。

 僕の場合、30代後半に仕事がうまくいき始めて、幸いなことにいろいろな偶然が重なって、セールスマーケティングサービスのカテゴリで最上位の賞をもらったんですね。ビル・ゲイツの名を冠した「Chairman's Award」という賞を。すごく嬉しかったのですが、そこで「俺は頂点を極めたぜ」と驕ってしまうような自分には絶対になりたくなかった。

 これはキャリアを変える潮時だなと思って、「僕、マネージャーになります」と会社に伝えて、一回ゼロリセットしたんです。過去の成功体験は思い出ボックスに入れて、今度はマネージャーとして初心に返ろう、と。

 田中さんのチームには天才トレーダーみたいな人たちがゴロゴロいたわけでしょう。やっぱり大変でした?