新著『The Giver 人を動かす方程式』が話題の元・日本マイクロソフト業務執行役員の澤円氏と、日本で「ギバー」概念の普及に寄与した経営学者の楠木建氏との初対談が実現。AI時代の「人間ならではの仕事」の価値とは?
(本稿は、「文藝春秋PLUS+」(1月23日配信)からの要約記事です)
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「じゃあ人間はどうするの?」が重要な主題に
澤 最近、講演会などでAIをテーマに話す機会が非常に増えています。今や依頼されるテーマの8~9割がAIなんですね。「生成AIに仕事を奪われるんじゃないか」といった不安があるわけですが、多くの人があまりにも「デジタルツールを使うこと」に注目しすぎている、という危機感があります。
楠木 おっしゃる通りで、生成AIに限らず、本来、技術の本質は「それまで人間がやっていたことを外部化する」ことにあります。すると「じゃあ人間はどうするの?」ということが改めて問題になるわけですが、これは今に始まった話ではありません。
かつて人は走ったり馬にのったりしていたのが、蒸気機関ができ、内燃機関ができて、汽車や自動車が生まれ、そんな移動の外部化に対して「新幹線が俺よりも速く走りやがって」と怒っても意味がありません。AIでも同じことで、技術が人間のある部分を凌駕するのは当たり前のことであって、そこで人間には何ができるのかが重要な主題になってきます。澤さんの新著『The Giver』は大きな文脈でそこに対する答えを提示している本だと思いました。
澤 ありがとうございます。AI時代には「人とうまくやっていくこと」自体が最大の仕事になる、その核心にすえるのは「Giver(=与える人)」というマインドセットだというのが僕の主張ですが、いろいろな企業に関わらせて頂くなかで近年とくに感じるのが「怒られないようにやる」というのが行動のベースになっている点です。
「〇〇さんが怒るからこれはやめよう」みたいな感情があまりにも上位にきてしまい、人間関係によけいな時間を費やしている人が多いことを肌身で感じます。
楠木 ビジネスにおける意思決定は、普通「得になるか・損になるか」「効率的か・非効率的か」ですが、特定の個人が「怒るか・怒らないか」で決めてしまうのは、結局、人間同士の感情というものが実際の行動要因として大きいということですね。
澤 そこで、他人の幸せのために自ら動くGiverという考え方が鍵になるわけですが、ここで多くの方が、Giverを「自分の将来の幸せ(リターン)のために、私もgiveします」という投資のような発想で捉えてしまっているんですね。

