数少ない娯楽として、あるいは厳しい労働や軍勤務に耐えるため
その一方、北朝鮮内でも変化が起きていた。太永浩によれば、2000年代初めから、国家が密輸出の目的で各地に作った覚醒剤製造工場から資材が流出。個人が非合法に製造・売買するようになった。各地に必ず密売人がいて、親しい友人が酒を勧めるような感覚で取引し、20~30代の若者を中心に広まっているという。金さえあれば誰でも手に入れられる。
別の40代の脱北者も「口コミで密売人を探して買っていた」と語る。また、50代の脱北者は「夜勤の仕事のため、4~5回、覚醒剤を使った経験がある」と語った。07年6月に青森県・深浦港で北朝鮮の男女4人が乗った木造船が見つかった事件では、漁師だった男性が「海上で眠ってしまわないように、覚醒剤を所持していた」と語ったこともあった。数少ない娯楽の一つとして麻薬や覚醒剤を使うほか、厳しい労働や軍勤務に耐えるために使うケースもあるようだ。
しかし、北朝鮮当局は麻薬取り締まり強化を公表しても、汚染の実態については対外的に決して明らかにしない。国内では公開処刑も続いているし、犯罪を糾弾する講演会も行われる。第3放送と呼ばれる有線放送では、軽犯罪を犯した市民の名前を一人一人取り上げ、糾弾することもある。それでも、外に向けては決して犯罪の実態を明かそうとしない。
北朝鮮の専門家は「(表向きは)地上の楽園だから、内部で起きた犯罪は明らかにできない」と語る。別の専門家が20年ほど前、北朝鮮東北部を訪れた。空港から目的地に向かう途中、運転手が近道を選んだ。通りすがりの田園地帯には、一面に白いケシ畑が広がっていたという。