投票システムの難点
2018年度の第91回授賞式で『グリーンブック』が作品賞に輝いた時、「意外な受賞結果」との声が多く寄せられました。最有力候補と言われていた『ROMA/ローマ』が監督賞、撮影賞、外国語映画賞(当時)の受賞にとどまり、最多受賞となったのは、フレディ・マーキュリーを演じたラミ・マレックの主演男優賞など4部門に輝いた『ボヘミアン・ラプソディ』だったからです。
『グリーンブック』は過去の歴史を踏まえながら現代社会の問題を描いた優れた作品です。舞台となるのは、公民権運動の渦中にある1962年。著名な黒人ミュージシャンの運転手を白人が務めるという、当時の社会通念からすると逆転した立場のふたりが心を通わせてゆく姿を、実在の人物をモデルに描いた作品でした。
近似した時代が舞台となっていた『ドライビングMISSデイジー』(1989)は、第62回で作品賞に輝いた作品。こちらでは、ユダヤ系の老婦人の運転手を黒人が務めていたことからも、『グリーンブック』の設定が特異であることをうかがわせます。肌の色や国籍、宗教などを理由に、誰かを排斥しようとする昨今の社会傾向が「半世紀以上前と何ら変わらない」という社会的メッセージを内包させながら、ユーモアと忍耐によって相手を牽制することで“非暴力”を実践するという、難易度の高い着地点を示してみせた点は見事でした。
同様の例は、第88回で最有力候補だった『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)が最多6部門の受賞を果たしながらも、『スポットライト 世紀のスクープ』(2015)が作品賞と脚本賞を奪っていった時にも起こり、投票に対する映画ファンの疑念を生んでいたのです。
こういった際に噂されるのが、2009年度の第82回から採用された投票の集計方法によって、平均点の高い映画が作品賞に輝く傾向にあるのではないか? という疑惑でした。最終投票の方式に、〈優先順位付投票制〉=〈Instant runoff voting〉が採用されたからです。
これは、作品賞のノミネート作品から1本を選んで投票するのではなく、ノミネートされたそれぞれの作品に1位以下の順位を付けて投票するという方式。この方式だと票割れの弊害を回避できるという利点がある一方で、多くの投票者が2位に挙げた作品の方が有利になるという逆の弊害を生むことにつながるのです。しかしながら、映画芸術科学アカデミーは投票数の集計結果を公表していないので、どの候補作品が“平均点の高かった作品”なのかは知る由もありません。あくまで、憶測なのです。第98回から実施される新ルールは、そういった疑念に対する対応策のひとつだと考えられます。
